AIG系、大和…生保を襲う株安地獄、業界再編の行方も混迷深まる

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 株価大暴落と円急騰など世界的金融混乱が、生命保険各社の資産を目減りさせ、保険業界再編にも大きく影を落とし始めている。

国内で事業を展開する生命保険会社46社のうち22社は、株式の含み益がゼロとなる3月末時点の株価水準を開示している。本誌では、10月27日時点の東証株価指数(TOPIX=746ポイント)を基準として主要生保22社の株式含み損益を試算した。その結果が62ページの表だが、3月末(TOPIX=1212ポイント)に全体で6兆9000億円あった株式含み益は、6500億円の含み損にまで反落した。
 
 また、保険各社はここ数年、低金利の円金利債券を避け、相対的に金利の高い外国資産を積極的に積み増してきた。だが、外国債券への投資を増やした結果、為替リスクが増大、リスクヘッジのコストも膨らんでいる。国内大手生保9社を見ると、9社中7社が外国証券を2008年3月末に前期比で積み増しており、同時点で日本生命、明治安田生命、大同生命を除く6社が含み損を抱えていた。世界的な株暴落により含み損はさらに拡大しているとみられ、為替も3月末の1ドル=100円から90円台前半まで急伸。この結果が為替差損、金融派生商品損となって当期純益を押し下げる。
 
 さらに保険商品のポートフォリオの変化も期間利益を圧迫する。昨年12月から全面解禁となった銀行窓販では、最低保証付きの変額年金が主流。変額年金は特別勘定を通じてファンド等の運用を行うが、株価などが下落し、運用が目標に達しない場合は責任準備金を追加で積み立てる必要が生じ、一般勘定で下落分を補うことになる。
 
 最低保証リスクを再保険契約でヘッジしている生保がある一方、一部生保ではヘッジの失敗等により最低保証にかかわる責任準備金が増加している。実際、住友生命は07年度の決算で、保険金支払いの責任準備金を677億円積み増した。このほかT&Dフィナンシャル生命やマニュライフ生命、東京海上日動フィナンシャル生命も責任準備金の積み増しを余儀なくされている。

資産運用失敗の大和生命 「特異」とは言い切れず

日本の保険業界で、世界中に広がる金融危機の影響を受けたのが、業界下位の大和(やまと)生命だった。10月10日に更生特例法の適用を東京地裁に申請し、経営破綻した。負債総額は約2600億円。生保破綻は01年の東京生命(現T&Dフィナンシャル生命)以来、7年ぶりとなる。

もともと大和生命は、低金利時代に対応した保険商品の開発が遅れたため、予定利率は3・3%と高かった。さらに保険料収入に対する販売コストなど事業費の割合も他生保に比べ約2倍。こうした高コスト体質からの脱却ができず、それを補うため無理な資産運用を行っていた。実際、資産運用はデリバティブや仕組み債などリスクの高い金融商品に傾斜し、有価証券に占めるそれら商品の割合は簿価の3割に達していた。他生保のハイリスク・ハイリターン金融商品の割合が5%程度であることからしても、大和生命のリスクの取り方がいかに無謀かわかる。
 
 大和生命の資産運用は、業界でも特異な存在といえる。だが、事業費、すなわち保険販売コスト面から見ると、事業費率が大和生命と同水準もしくは高い保険会社も存続している。現状の金融市場の混乱からすれば第2、第3の大和生命が出る可能性は確実に高まっている。
 
 金融危機が深まる中、やはり混迷の度を深めているのが、米保険最大手AIGの資産売却問題だ。経営危機に陥り、米政府の管理下に置かれたAIGは、アリコジャパン、AIGスター生命、AIGエジソン生命の国内生保3社を売却する方針を打ち出している。だが、売却方法に関し、一括売却か分割売却かなど、依然、明確な方針が示されていない。

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