金融危機下で攻める! 中東カード市場へ進出するJCB・オリックスの果敢
日本から12時間余の空の旅でたどり着いたのは、モスクと巨大クレーンの熱気あふれる都市だった。アラビア半島先端にあるアラブ首長国連邦(UAE)の中心都市、ドバイ。かつては砂漠だった大地に、今、次々と巨大高層ビルが建設されている。
豊富な石油資源に支えられた国家ならではといえるだろう。ほとんどの税金が存在しない。そんな事業環境もあって、世界の東西南北からこの都市に企業が進出し、労働者や観光客がやってくる。ドバイは中東の一大消費基地となった。巨大なショッピングモールやスーパーマーケットには、さまざまな母国語を話す老若男女が押し寄せ、旺盛な購買力をみなぎらせている。
提携相手は中東有数の流通メジャー
この成長市場に着目して、現地の有力コングロマリットとの合弁形態によるクレジットカードビジネスを開始したのが、ジェーシービー(以下、JCB)とオリックスだ。説明するまでもないが、JCBはわが国唯一の国際ブランドを運営する有力クレジットカード会社であり、オリックスは比較対象会社が見当たらないような独自路線を走る総合金融企業。オリックスはJCBの株式5%を保有する株主でもある。
2社が手を組んだ現地資本は、MAF(マジッド アル フタイム)グループ。創業者はトヨタ自動車のディーラー事業で成した財を基盤に、流通小売業、ホテル、不動産などを営む巨大な多角的企業に育て上げた。
中でも、中核事業である流通小売業の規模は質量ともに中東地域有数だ。仏大手流通資本のカルフールから中東・北アフリカ地域の営業権を取得し、UAE国内に10店のほか、サウジアラビアなどにも進出。合計31店のカルフール店舗ネットワークを築いている。多くがカルフールと併設されているショッピングモールはUAE国内4拠点のほか、オマーン、エジプトなど合計9拠点。すべて巨大規模だ。
たとえば、ドバイ中心地からやや西方にある「モール・オブ・エミレーツ」は、平日でも夕方になれば1万台収容の駐車場が満車となるほどの人気スポット。ちなみに、人口450万人足らずのUAEで、カルフールへの来店客数は年間3000万人に達する。
この巨大現地資本と本邦2社の接点は、オリックスが2002年に合弁設立した金融会社に始まる。そして、オリックスがカードビジネスに興味を抱くMAFグループと、中東地域の強化を狙っていたJCBを結びつけたのが05年のことだった。
分厚い店舗ネットワークと手厚い会員サービス
それから約3年を要して、今年10月15日に立ち上げたのが合弁会社「MAF JCB ファイナンス」(MJF)によるクレジットカードビジネスだ。JCBは同社に、中東・北アフリカ19カ国で加盟店事業、会員事業を独自に営むライセンス権を与えた。
当日の記者会見には、現地の主要メディアがこぞって駆けつけた。「何しろ、メジャー企業、MAFグループの新機軸だから」。参加していた現地メディアの記者の一人は注目度の大きさをこう表現した。
MJF社CEOのラスール・フジェール氏が「われわれは顧客ニーズに応えるユニークな企業となる」と強調するように、同社が今後提供するサービスは極めて独自性に富む。そもそも、「najm(現地語で『星』)」と命名されたカード券面がユニークだ。JCBのJの頭文字を印象づけるように、カラフルなフェースの対抗軸線上の二つの角が丸みを帯びる。なかなか、おしゃれだ。
しかし、真骨頂はほかにある。MAFグループの店舗ネットワークを生かした、手厚いカード会員サービスがそれだ。具体的には、カルフール店舗での最大50%の割引優待やポイントプログラム、ホテルの20%割引、ファッションストアの最大25%割引等々を提供する。
「発表後1週間で、ネットもしくはカルフール店舗内の同社カウンターには、1万5000件を超える問い合わせがあった」(JCB国際企画部)。
よりよいサービスに対する消費者の反応の素早さは世界に共通する。上々の滑り出しといえそうだ。
もっとも、ポイント制や優待割引などのサービスの高さは、裏返せば、カード事業体や加盟店にとってのコスト高である。プロモーションコストも軽視できない。加盟店が母体企業であるとはいえ、そうであれば、最終的には事業構造全体のコストが経営の足を引っ張りかねない。