近未来の感染症流行を予測できる数式の衝撃 北大教授「数理モデルで感染症を食い止める」
それでも神戸と大阪でH1N1による流行が起こった。
感染していても発熱しない人が4割ぐらいいるし、感染しても発症前で発熱していない人もいる。仮に発熱していても市販薬を飲んで熱が下がっている人もいる。サーモスキャナーだけではとても捕捉しきれない。検疫を通り抜ける感染者が出る。
では、どれくらい素通りしたかという分析を数理モデルを使って推定した。その結果は衝撃的ですらある。発熱者を探すだけでは100人にわずか1人の感染者しか発見できないというものだった。
延べ3万人が動員されたというこの水際作戦はほぼ役に立たなかった。作戦は見直しを余儀なくされ、研究結果をもとに効果が極めて限定的であることが報告された。
少しずつ数理モデルが理解されていった
最近、日本ではあまり大きな話題にはなっていないが、静かに潜行している問題にHIV/AIDS(ヒト免疫不全ウイルス感染症および後天性免疫不全症候群)の流行がある。かつてはHIV感染者の報告数がこんな傾向で続くだろうという「見通し」が何の根拠もなく置かれ、対策が議論されていた。
しかし、数理モデルを使うことで、診断された人、治療下にある人が何パーセントで、診断されていない人がどれくらいということが出せるようになった。その上で制御がうまくいっているかどうかを評価しながら予測できるようになった。
この武器を持って厚労省のエイズ動向委員会のメンバーにもなったが、「それって本当か?」という疑問をぶつけられてしまう。
そのため西浦教授は、まったく異なる体系で推定をし、その結果を比較することで推計の信用性を担保することにした。
免疫細胞の数の変化や、ウイルスの遺伝子変化の速度といったデータから、感染してから診断されるまでの期間の分布が分かり、そこに数式を当てはめてまだ診断されていない人の推計値を出した。
まったく違う方法論に基づく推計値がほぼ近いものになったことで、ようやく数理モデルを使った推定値が少しずつ受け入れられるようになった。
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