近未来の感染症流行を予測できる数式の衝撃 北大教授「数理モデルで感染症を食い止める」
その教授のところで本人の言葉を借りれば「モグリの」研究生になり、大学院に入ってイギリス、ドイツ、オランダと研究機会を求めて渡り歩いた。念願のテーマである感染症への数理モデルの応用である。流行状況を把握して、これから何をしなければならないかという政策立案も含めて研究を続ける。
ロンドンにいたときには、カバン持ちで世界保健機関(WHO)などの国連機関の研究会議にも出席し、どんな感じで先生がカードを切るのかを説明してもらったりもした。この経験は、後に日本で政策立案に関わるときに大いに役立つこととなる。
感染症の数理モデルとはそもそも何か。
「感染症がどのように伝播し、感染した人がどの程度の期間で発症し、重症化するのかといったプロセスを数式で記述する」ことだと西浦教授は言う。
そしてここ15年ほどで数理モデルの妥当性や信頼性が飛躍的に高まった結果、欧州を中心に保健医療政策の形成過程で盛んに活用されるようになったともいう。
対策次第で大規模流行は起こらないと結論
数理モデルの活用で何が可能になるのか。分かりやすいのは予防接種の見積もりだと説明する。さまざまな感染症に対して「ワクチンを接種して人口の何パーセントが免疫を持てば大規模な流行を防ぐことができるのかを計算することができる」。
2012年から2013年にかけて、日本で風疹が大流行をしたことがある。その時のデータを分析すると、流行の中心的役割を果たしたのは成人男性だった。
風疹の定期接種は1994年まで女子中学生のみだったため、2010年代になると免疫のない成人男性が目立つようになっていた。そこで成人男性のデータを感染症モデルに取り込んで、風疹がまた流行しないようにするための条件を計算してみた。
その結果、30〜50歳代の男性の約2割が風疹の免疫を新たに獲得すれば大規模な流行は起こらないという結論を得た。
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