近未来の感染症流行を予測できる数式の衝撃 北大教授「数理モデルで感染症を食い止める」

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1990年代までは学童にインフルエンザの集団接種をしていた。あるとき集団接種をしていた群馬県のある街と、していなかった街の間で感染リスクがあまり変わらないというリポートが発表された。

これをきっかけに、ワクチンは効かない、副作用があるという反対運動が起こり、結局、集団接種を止めてしまう。

そして何が起こったか。

インフルエンザは毎年学校を中心にして流行し、高齢者の死亡が増えるという事態になったという。

その一方で、イギリスでは数理モデルに基づく研究が行われ、子どもにワクチン接種をすれば感染者、死亡者が減るというリポートが出た。これに基づいて、2014年から集団接種をするように法律が改正された。アメリカもやはり独自に数理モデルを用いて、集団接種に動いた。

他分野でも活用の機会

西浦博・北海道大学大学院医学研究院教授(写真:Ryoma K.)

いま日本では、高齢者のワクチン接種を予防接種法における対象にしている。だがそれと同じ量のワクチンを高齢者ではなく子どもに接種すれば「倍以上も集団レベルで感染リスクが減る」ことはわかっていると西浦教授は言う。

しかし、実際のところ、厚労省にとって予防接種政策を180度転換するのは容易ではない。

「経験と勘」を頼りに決められているのは予防接種だけではあるまい。そこに数理モデルに基づいて一定のエビデンスを持ち込み、それによって政策が形成されれば、政策の効果が上がり、コストも安くなっていくかもしれない。

ましてこれから日本の社会状況は大きく変化していく。人口減少がますます目立ってくる社会だ。そのなかで、インフラ整備でもそれによる経済効果の試算が実態からかけ離れることが増えてきた。試算に基づく政策というより、自分たちが整備するインフラを正当化する数字を持ってくることも多い。

しかし日本の資産は限られている。それを上手に使うためにも、数理モデルをさまざまな分野で活用することを検討してみる価値はありそうだ。

藤田 正美 ジャーナリスト

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ふじた まさよし / Masayoshi Fujita

1948年東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、『週刊東洋経済』の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて『ニューズウィーク日本版』創刊プロジェクトに参加。1994年から2000年まで同誌編集長。2001年より同誌編集主幹を務め、2004年に独立。日米のメディアを知る経歴を活かして、より冷静で公正な視点を求めて活動中。

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