恐怖!田舎暮らしは「地獄の沙汰もカネ次第」 場所によってはこんなにヤバい「お金の話」

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自治体が発行する移住体験記のパンフレットに、家族全員で紹介されたこともあった。

「子どもにとっては、まさにふるさとができたといった感覚で、僕らにとっても第二の故郷と呼んでもいいかなと思ってうれしかったんですが……」

移住して6年目、長女が小学校を卒業するときだった。周囲に突然、不穏な空気が漂い始めた。

「誰の金で生活できたと思ってやがるんだ」「俺たちの金で海外に行きやがって」

集落には、ジェットヒーターまで完備された全天候型のゲートボール場がいくつもある。うわさ話は年間を通じ、ゲートボール場で火が付き、そして拡散し、尾ひれがついてまたゲートボール場に戻ってくる。あるいは、辺りにたった1つの診療所のロビーで。

「うわさ話だけは、インターネットよりも速いと言われる土地だと言われていたので……」

高藤さん家族の耳に、自身らに向けられた罵声が届くのはあっという間だった。

やり玉に挙がったのは、長女の修学旅行である海外研修旅行の件だった。かの地では、姉妹都市を結ぶ海外に、小学生の卒業旅行で行くのが恒例行事だった。小学校入学と同時にかの地に越してきた長女にとっては、まさにその小学校と集落が故郷同然。海外とはいえ、修学旅行に参加するのは当然だと思っていた。

しかし、過疎化の進んだその移住先には、すでに中学校がなくなっていた。集落から中学校に通う者は、早朝5時、6時には自宅を出て、本数の極めて限られたバスに乗るか、あるいは毎朝、家族が10キロ以上離れた場所まで送らなければならない。

「冬場は氷点下10度くらいいくこともざらな寒い場所ですから。さすがに中学生の通学でそれだけの負担を強いるのはかわいそうだなと思って。それで、中学校がある佐久市内に越すことに決めたんです」

それが、集落住民らの怒りを買ったのだ。だが、怒りの矛先は高藤さん家族が引っ越すこと、そのものではないようだった。

「娘の海外への修学旅行の金は、もともとは俺たちの税金だろうって。それを返せって。出て行くくせに海外への修学旅行に行きやがってって、それが気にくわなかったらしいんです」

さすがは教育県と呼ばれる長野県である。修学旅行とはいえ、海外研修を計画し、その姉妹都市からは小学校にして時折、英語教師さえ派遣されていた。都会ほど生徒数が多くないこともあったのだろう。海外への修学旅行費用も、教育委員会の予算として支出され、児童全員が参加するれっきとした学校行事であった。

「だけど、もとをたどれば俺たちの税金だと。集落を出ていく癖に、海外への修学旅行に参加しやがって図々しいと、そういうことのようでした」

田舎の返礼は「倍返し」が基本

移住成功家族として自治体のパンフレットにまで紹介されながら、高藤さん夫婦は半ば白眼視され、最後はまるで追い出されるような気分で集落を出ることになった。

「娘にとっては幼なじみの友達もできた土地で、物心がついてからのまさにふるさとだったので、残念でした」

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