日銀の金融政策変更は財政にどう影響するか 突発的な金利上昇への備えが重要になる

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それは、表面利率(クーポンレート)はシステム上の制約から、0.1%未満にはできない仕組みと関係がある。長期金利の代表銘柄である10年物国債は、固定利付で発行されている。だから、政府は債権者に半年に1度払う利子をいくらにするか、あらかじめ表面利率を決めてから発行する。しかも表面利率は、発行時点の市場実勢利回りなどを踏まえて設定する。

表面利率は、利払費として、直ちに財政に影響する。国債発行額×表面利率が、その年の利払費となる。表面利率を低くできれば、財政における利払費負担は軽くなる。

他方、市場実勢利回りは、財政とは直接関係ない。なぜなら、市場実勢利回りは、既発国債が流通市場で取引される際に決まる利回りで、その利回りがどう変わろうと、すでに決まった表面利率は変わらないからである。しかし、表面利率は発行時点の市場実勢利回りなどを踏まえて設定するという原則があるから、市場実勢利回りは財政と間接的には関係がある。

この原則に従えば、市場実勢利回りが0.1%未満となるときには、表面利率もその水準に合わせて下げることになるはずである。もしそうできれば、市場実勢利回りが0.1%を割って下がれば、表面利率も下がって財政における利払費負担は軽くなっていたはずである。

しかし、システム上の制約から、表面利率は0.1%が下限となっている。そのため、市場実勢利回りが0.1%を割って下がっても、表面利率は0.1%のまま据え置かれていた。だから政府はこれまで、表面利率を0.1%として利払費を負担し続けた。この点では長期金利の低下が利払費負担の減少につながってはいなかった。

まさに0.1%を境に明暗が分かれた

ちなみに国債を購入する金融機関側は、表面利率が0.1%でも、国債を購入してから売却するか満期で償還されるまでの間の利回り(所有期間利回り)などを勘案しながら、新規発行される国債の購入(入札)を決めるから、市場実勢利回りが0.1%を割っている状況であれば、金融機関が望む利回りもそれに連動して低くなっていた。つまり、発行時の利回り(募入利回り)が低くなる分、発行時の国債の価格は額面より高くなっていた。

そうした状況が、2016年1月29日の金融政策決定会合で決めた「マイナス金利政策(マイナス金利付き量的・質的金融緩和)」以降、定着していた。マイナス金利政策導入後の市場実勢の長期金利は、2017年2月に一時0.1%をわずかに超えたものの、それ以外の時期は0.1%未満だった。加えて、10年利付国債の平均の募入利回りは、マイナス金利政策導入以降、0.1%を割ったままだった。

それでも、表面利率は0.1%のままだから、財政における利払費負担は減ることはなかった。

ところが、7月31日の金融政策決定会合以降、市場実勢利回りが0.1%を超えるのに反応してか、8月2日に行われた新発の10年利付国債の発行(入札)では、募入平均利回りが0.126%となった(ちなみに7月3日の入札では同利回りは0.037%)。0.1%を超えたのはマイナス金利政策導入前の2016年1月以来のことである。

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