日本建築は今も木造の伝統を受け継いでいる ヨーロッパの「石造」建築とは対照的だ
――展覧会に出ている日本の近現代建築家で、木造の遺伝子をもっとも濃く受け継いでいるのは誰ですか?
丹下健三ですね。彼は木造のデザインや方法論を鉄筋コンクリートという近代の素材・工法に置き換えようとしました。そのときにいろいろな工夫をしているのですが、その一つが柱を四角くしたことです。彼はコンクリートで四角い柱を立てた、最初の建築家なんです。それまでヨーロッパでは古代ギリシャの神殿に始まり、ル・コルビュジエに至るまで柱は丸くするもの、という伝統がありました。日本でも住宅は角柱ですが、寺院建築では柱は丸い。丹下さんが柱を四角くしたのは、四角い梁を載せるには丸い柱より四角い柱のほうが向いているからです。小さなところですが、それが建築家の“勝負どころ”なのです。
実は丹下さんも戦前につくった建築のプランでは丸い柱の上に四角い梁を載せていました。が、戦後になって『この案を直したい』と言い、その後の作品では柱を四角くしています。彼ほどの才能の持ち主でも、このことに気づくには十数年もの時間がかかったということです。
まねをした建物は、やはりどこかが違う
――そういった細かいところに気を配るのが日本の建築家の特性なのでしょうか。
丹下健三だけでなく、他の建築家もそうですね。外国ではときどき、安藤忠雄の真似をした建物がありますが、やはりどこかが違う。それは安藤さんが柱や梁を壁や天井の中に隠して、真っ平らな壁や天井にしていることが多いのですが、“コピー”ではそんなことに頓着していないからです。柱や梁が見えるようにしている丹下さんも柱・梁・壁・天井ががたがたにならずにぴしっと揃えるようにしている。
この背景には、ヨーロッパでは梁をあまり意識しないということもあります。ル・コルビュジエが唱えた『近代建築の五原則』でもスラブ(床または天井の板)はありますが、梁はない。だからグロピウスの建築などでも壁の隅がぴしっと揃っていないといったことが起きるんです。