人生100年、「学び直し」には本当に効果がある 「経済財政白書」が示す雇用や年収への影響

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人生100年時代になると「学び直し」の重要性が増す(写真:KAORU / PIXTA)
WHO(世界保健機構)のデータによると、2016年における日本人の平均寿命は84.2歳。これは世界ランキング1位の値であり、日本は世界一の長寿国であるといえる。また、今後も、この平均寿命は延びることが見込まれており、国立社会保障・人口問題研究所の予想では、2050年までに女性の平均寿命は90歳を超える。
こうした中、長寿化する社会を見据えて、何歳になっても学び直しを行うことの重要性は、政府が主導する「人づくり革命」でも指摘されている。なぜ今、学び直しが重要なのだろうか。ここでは、2018年版の「経済財政白書」での分析結果を踏まえ、その理由について考えていきたい。

 

学び直しを行うことには、大まかに分けて2つの意義がある。

1つは、「人生の再設計」である。長寿化する社会では、就業期間についても長期化することが見込まれる。長い職業生活を充実したものにするためには、多様なキャリア形成を行って、自分に合った仕事を見つけていくことが必要である。これまでのような、新卒で就職した企業で定年まで働くという「単線的」な職業キャリアではなく、学び直しによって、転職や起業などの「複線的」なキャリア形成を行っていくことが望ましい。

2つ目は、AI(人工知能)などの技術革新のスピードが速い中、学び直しによって、新技術に対応したスキルや、AIなどの機械に代替されにくい能力を身に付けることである。新技術は、特に定型(ルーティン)的な作業を代替する可能性の高いことが指摘されている。新技術の普及に伴い、これからの働き手に求められるのは、新技術を活用して分析・調査を行うことや、営業・交渉といった対人関係に基づく業務など、非定型(非ルーティン)的な業務を行うことである。企業が支出する教育訓練費は低下傾向にあるので、個々人が主体的に学び直しを行っていくことが求められる。

では、学び直しには本当に効果があるのだろうか。データを使った分析を紹介したい。

ここまでは、漠然と「学び直し」と述べてきたが、具体的には、大学や専門学校等に通うこと、通信教育やオンライン講座を受けること、セミナーへの参加、書籍による独学など、学び直しの方法はさまざまである。しかし、同じ人を追跡調査したデータを用いて分析した結果、どのような形であっても学び直しには何らかの効果が見られることがわかった。

「学び直し」で収入アップ、就業確率も高まる

就業者を対象に、学び直しをした人としなかった人で、その後の年収変化の差額に違いが見られるかを推計したところ、1年後では統計的に明確な差は観測できなかったが、2年後では約10万円、3年後では約16万円の増加が観測された。

ここでの分析方法のイメージを簡単に紹介すると、まず、30歳以上を対象に、学歴・年齢・年収・就業形態などが似通った2人を選定する。うち片方は上記のような学び直しを行った人で、もう片方は同じようなバックグラウンドを持つものの、学び直しを行わなかった人である。この2人に1~3年後にどのような違いが見られるのかを平均的に推計した。

次に、学び直しでも、その方法はさまざまであることから、学び直しを、①大学や専門学校等での学び、②通信講座の受講、③書籍による独学やセミナーの受講等(その他)の3種類に分けてその効果を推計した。方法別に2年後における年収の変化を見ると、学び直しを行わなかった人と比較して、大学等での学びにより29万円、通信講座の受講により16万円、独学・セミナー等により7万円、年収が増加したとの結果が得られた。なお、これら3つの「学び直し」はすべて統計的にも明確な効果が確認できている。

分析結果を踏まえると、効果の高い学び直しは、大学や専門学校等での学習である可能性が高い。ただし、比較的簡単に始められる書籍による独学等でも、一定程度の効果が観測できる結果となっている。社会人になっても、その方法にかかわりなく、学び続けることの重要性がデータからも確認できたといえよう。

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