「ふるさと納税」、返礼品目的以外の活用法 被災地復旧にあて寄付本来の趣旨に沿うべき

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そこでは、寄付金に対し返礼割合が3割を超える返礼品や地場産品以外の返礼品をいずれも送付している市区町村で、2018年8月までに見直す意向がなく、2017年度の受入額が10億円以上の市区町村として、次の12市町村を列挙。茨城県境町(21.6億円)、岐阜県関市(14.1億円)、静岡県小山町(27.4億円)、滋賀県近江八幡市(17.7億円)、大阪府泉佐野市(135.3億円)、福岡県宗像市(15.6億円)、福岡県上毛町(12.1億円)、佐賀県唐津市(43.9億円)、佐賀県嬉野市(26.7億円)、佐賀県基山町(10.9億円)、佐賀県みやき町(72.2億円)、大分県佐伯市(13.5億円)である(カッコ内は2017年度のふるさと納税受入額)。

実名を挙げた背景には、返礼品競争がふるさと納税制度全体に対する国民の信頼を損なう、という総務省の認識がある。今年4月に総務大臣名で「ふるさと納税に係る返礼品の送付等について」を出し、返礼割合が3割を超えるものを返礼品としている自治体に、返礼品の見直しを求めた。

ふるさと納税の返礼品競争は、4年も前から、東洋経済オンライン本連載の拙稿「謝礼品合戦の『ふるさと納税』をどうする?」で述べていたところである。拙稿執筆以降も、返礼品競争はどんどん激しくなっていった。実名を挙げられた市町村のうち、九州地方の市町村が7つを占めているというのは、やはり九州地方の市町村で人気のある返礼品を出しているところが多いことが、市町村の横並び意識を刺激したのだろう。

実名を挙げられた市町村は、「2018年8月までに見直す意向がない」ところなので、これらの市町村がいつまでも返礼品競争をあおっているとは言えない。ただ、実名公表に踏み切ったわけだから、総務省のただならぬ思いがにじみ出ている。

返礼品で経費増、何のための寄付なのか

もっとも、返礼割合が3割未満だったらどしどし返礼品を贈ってよいのかというと、それもふるさと納税制度の趣旨にかなっているとはいいがたい。そもそも、ふるさと納税は、寄付金税制の一環として創設されたものなのだ。現に、前掲の「平成30年度ふるさと納税に関する現況調査について」によると、2017年度におけるふるさと納税の募集や受け入れなどに伴う経費は、合計で2027億円と、ふるさと納税受入額の55.5%となっており、かなり高い経費率になっている。

うち、返礼品の調達や送付に係る費用は1647億円で、経費合計の81.3%、ふるさと納税受入額の45.1%となっている。これは、自治体がふるさと納税で寄付をもらいながらも、半分近くは返礼品の調達や送付におカネを費やしてしまっていて、手元に残っていないことを意味する。何のための寄付なのか、改めて考えさせられる。

そうした観点から、被災した自治体に対する寄付に、返礼品目当てでない形でふるさと納税が活用されたことは、もう一度、ふるさと納税の趣旨を確認することができたといえよう。寄付する側も、「ふるさと納税=返礼品目当て」という認識を改める機会になるとよいし、寄付を受ける自治体も、返礼品なしでもふるさと納税で寄付を多く集められる知恵を出すことの重要性に気が付く、よい機会になるとよい。

基本的に、ふるさと納税で得た寄付金は、それを受けた自治体の行政(公益を追求)のために用いるものであり、返礼品は特定の者の利益を増やすことがない範囲で認める、というけじめが必要だ。ふるさと納税に対して返礼品を贈るとしても、特定の業者ばかりでなく、地元の多くの業者に薄く広く発注できるような形で返礼品を用意するなどの工夫が求められる。

ふるさと納税を寄付金税制として位置づけ、寄付文化が日本に根付くことに資するものとなることを願う。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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