アジア最高の経営者が、中国から逃げ出すワケ
「超人」李嘉誠が試みる「脱亜入欧」

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いつでも逃げられる態勢づくり

香港返還からすでに20年近くが経過した。「港人治港」や「一国家二制度」は、十分に定着したとは言いがたく、むしろ中国との関係においては矛盾点のほうが目立つようになっている。

もともとリベラルな思想の持ち主が多い香港財界が政治的リアリズムに基づいて、中国政府と適度な距離を保ちながらうまく付き合ってきたのが、 1997年の香港返還後の香港財界のあり方だった。しかし現在の香港では、共産党の意向で物事が一気に変わりかねないとみる向きもある。

その反動もあって、最近の香港では市民の間に反中国感情が強まり、中国との一体化を批判するデモが多発している。また、李ファミリーの香港支配を批判するデモやメディアの記事も増えている。

筆者は李嘉誠の行動が、共産党による一党支配の下で資本主義経済を維持している中国・香港の政治・経済システムの「不確実性」に対するリスク分散である可能性が高いとみている。同時に、中国・香港の成長局面は近いうちに限界に達するという予測もあるだろう。李嘉誠が中国や香港を完全に捨て去るとは考えられないが、両足とも中国にはまり込んでいたところから、片足を抜いて、いつでも逃げられる態勢に変えようとしているとは言えそうだ。

「超人」李嘉誠の行動は、ほかの企業家や市民に対する心理的影響は大きい。北京はしばらく李嘉誠の動向に頭を悩ませそうである。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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