日本人が知らない欧米のきわどい「移民問題」 各国で移民や難民に対する寛容性に差

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フランスの優勝で幕を閉じたサッカーのワールドカップでは、勝ち進んだ欧州のチームに多様な人種のメンバーが含まれていた点が注目されている。しかし、世論調査の結果を見る限り、サッカーチームの多様性が、そのまま欧州の寛容さを示しているわけではなさそうだ。

意外かもしれないが、米国は欧州よりも移民・難民に寛容なだけではなく、寛容さの度合いが高まる傾向にある。1994年にピュー・リサーチ・センターが行った世論調査では、「移民は米国を強くする」という回答は3割程度であり、「移民は米国の負担になる」という回答が6割強を占めていた。ところが2017年の調査では、「米国を強くする」との回答が6割を上回り、「負担になる」との回答は3割弱に止まっている。

米国の問題は支持政党による見解相違の拡大

むしろ米国の問題は、支持政党による見解の相違が拡大している点にある。2017年の調査では、民主党支持者の8割強が「移民は米国を強くする」と回答しているのに対し、共和党支持者では同様の回答が4割強となっている。1994年の調査では、いずれの政党の支持者も3割強が「移民は米国を強くする」と回答しており、支持政党による違いは拡大している。欧州主要国と比べると、総じて移民・難民には好意的だが、支持政党による意見の分断は、欧州より深いのが現実である。

米国では、支持政党による分断の深まりによって、移民問題が政治的な争点になりやすい環境が生み出されている。対立政党との違いが打ち出しやすく、この問題に注目が集まると、有権者の投票意欲が盛り上がりやすいからだ。

2016年の大統領選挙でも、移民に対する厳しい姿勢は、トランプ大統領の勝利を決定づけた重要な要因だった。共和党の予備選挙でトランプ大統領は、あらゆる州で移民問題を重視する有権者から他候補を上回る支持を得た。

ヒラリー・クリントン元国務長官との対決となった本選挙では、移民問題を重視する有権者の6割強が、トランプ大統領を選んでいる。トランプ旋風の背景としては、白人ブルーカラーの経済的な不満が指摘される。しかし実際には、経済問題を重視した有権者の5割強は、クリントン候補を選んでいた。

11月6日に投開票が行われる米国の中間選挙でも、移民問題への注目度は高い。ワシントンポスト紙が行った世論調査によれば、2割程度が移民問題を中間選挙の最大の争点にあげている。これは医療保険と同じ程度の注目度であり、経済・雇用問題に次ぐ注目度の高さである。さらに共和党支持者に限れば、3割弱が移民問題を最重要課題にあげており、経済・雇用問題を上回り、最も関心の高い論点になっている。これとは対照的に、通商問題を中間選挙の最重要課題とする回答は、いずれの政党の支持者でも5%に満たず、圧倒的に注目度は低い。

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