新たな地域医療格差? 必要な血液は届くのか、日本赤十字の危うい集約戦略

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新たな地域医療格差? 必要な血液は届くのか、日本赤十字の危うい集約戦略

手術、交通事故、貧血……。輸血は誰でもいつどこで必要になるかわからない重要な医療だ。日本国内では年間延べ494万人が189万リットルを献血し、命を支え合っている。そんな血液医療の現場が今、「集約化」で揺れている。

献血された血液は輸血に使えるかを検査し、赤血球、血小板、血しょうの成分ごとに分離調製、包装されて(製剤)、医療機関に供給される。国内では日本赤十字社(日赤)が採血と輸血用血液製剤の製造・供給を一手に担う。従来は各都道府県に1カ所以上ある日赤血液センターが採血、検査、製造、供給の全プロセスを“自己完結”させてきた。拠点数はピーク時には78カ所を数えたが、日赤は2005年以降、地域ごとに基幹センターを決め、検査・製剤工程を県境を越えて集約してきた。

検査は全国10カ所へすでに集約を終えた(下図)。さらに製剤の集約化も進め、まずは09年度内に18カ所にした後、最終13年度には11カ所にする。集まった血液は基幹センターで製剤化され、各地の被集約センターへ再び送り戻される。

安全・安定・効率化 日赤は広域化に自信

日赤は集約化のメリットを三つ挙げる。安全対策の充実、安定供給、そして事業効率化だ。全国一律の安全対策基準はあるが、「各施設で品質の統一化ができていない面もあった」(西田一雄・日赤血液事業本部参事)。古い建物では国の製造品質管理基準(GMP)を満たせなくなるおそれもあった。集約化すれば「近代化した施設で均質な製剤が提供でき、新たな安全対策技術にも迅速に対応できる」(同)。

血液は生きた細胞であり、有効期限があるいわば生(なま)ものだ。広域化でパイが大きくなれば需給管理が徹底され、血液不足や製剤の期限切れ、血液型による過不足なども減らせるとはじく。

“台所事情”も絡む。日赤は04~06年度の3年間で約150億円の累積赤字を出した。大きな原因は供給収入の減少だ。血液製剤の薬価は、エイズウイルス検査、B型・C型肝炎検査、精度の高いウイルス核酸増幅検査など新しい安全対策が導入されるたびに引き上げられてきた。

直近では06年に白血球除去開始という名目で再度上がり、200ミリリットル血液由来の赤血球濃厚液は8169円と、10年前の1・5倍になった。「ただ、医療機関に対する血液製剤の供給数が血しょうを中心に年々減少したために、収入が減少した。04年から新たに取り組んだ安全性強化投資も総額数百億円に上る」(飯嶋喜史・日赤血液事業本部財務課長)。

07年度は供給量の底打ちや緊縮財政の効果も出て黒字転換したものの、施設統合による事業費用の抑制は必要だという。実際、検査の集約で「検査機器の数がぐっと減り、機器リース代や材料経費に一定の効果が表れた。結果として職員も合理化される状況も出てきている」(同)。

「医療機関に安心してお使いいただくような製造所の配置が必要で、やみくもに数を減らせばいいものではない。危機管理も念頭に置きつつ、おおむね片道3時間の範囲に基幹センターを置いている」(西田氏)。

品質も供給体制も改善し、搬送にも支障がないなら国民にもプラスだ。ただ、医療現場の受け止め方はそうではない。聞こえてくるのは、産科、小児科、救急で広がった医療格差のさらなる拡大を危惧する声だ。


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