新たな地域医療格差? 必要な血液は届くのか、日本赤十字の危うい集約戦略

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「A型患者にAB型」とっさの緊急処置発生

製剤集約化に関しても医療現場の不安は募る。「基幹センターから遠くなった地方は血小板供給の遅延が懸念される。長野もまさにそう」と言うのは、信州大学医学部附属病院輸血部の下平滋隆医師だ。「午前中に欲しいのに、センターから『午後になります』『あと5時間待ってください』と言われるケースが起きている」。定期的に血小板投与が必要な骨髄移植患者が入院中に、重い外傷や大動脈解離、産科的な大出血など大量に輸血を要する患者が救急搬送されてきたら……。下平医師は気をもむ。

発作性夜間血色素尿症や腎不全患者に使う洗浄赤血球や、新生児黄疸などに用いる合成血といった二次製剤は有効期間が24時間と特に短く、期限ギリギリで搬入されてくることもある。幸い信州大附属病院は院内で独自に二次製剤を調製できるが、「そうした設備を持たない医療機関は、日赤からの搬入が遅れれば即座に治療に影響する。地域間の格差が心配。日赤はぜひ医療現場の声を聞いて密な連携を図り、サービス低下につながらないようにしてほしい」というのが、下平医師の切実な願いだ。

実際、埼玉センター圏内のある病院では先日、“不測の事態”が発生した。深夜の外科緊急手術でA型血小板が必要になったが、近隣のセンターは「在庫がない。明日朝、埼玉発の便で運ばないと供給できない」。手術チームはとっさの判断で、AB型血小板を患者家族にも説明のうえ輸血。手術は無事終了した。「不適合ではないが、血液型が異なる血液製剤を使わざるをえない事態が初めて発生した」と同院の医師は明かす。

地域でのセーフティネット必要だが…

「血液センターを集約化しようとすれば、田舎の病院はどうしても不利になる」。長野県小諸市にある小諸厚生総合病院の小泉陽一院長は、ややあきらめ顔だ。同院は国道沿いということもあり交通事故者が数多く運ばれてくる。救急搬送数は年間2000台。心臓外科も有するため輸血は比較的多いが「従来も長野センターから届けてもらうには高速を使っても1時間はかかっていた。松本から長野回りで高速を飛ばしてもやはり遠い。埼玉になっても変わらない」(同)。

普通の医薬品ならば在庫を厚めに持てばいい。が、血液製剤はそうはいかない。以前は、取り寄せて使わなかった製剤は期限前なら返品できたが、今はそのまま廃棄処分となり、病院の収支を圧迫する。同院でも、年間3000万円弱購入する血液製剤のうち170万円程度が廃棄に回る。「もっと減らすべく、在庫は各血液型1パック程度にとどめ、外科には手術用の輸血は最低量だけ確保するよう徹底している」(小泉院長)。それができるのも、「手術の途中で足りなくなったら血液センターに電話すれば必ず届けてくれるという安心感」があるからだ。

小泉院長は、夜中の交通事故や緊急手術に対応するセーフティネットが必要だと感じている。小諸厚生総合病院のある佐久地区では、つねに血液製剤を一定量積み込んだ輸血保冷車が、市内の浅間総合病院か依田窪病院に待機。予定手術中に製剤が足りなくなったら血液センターに電話すれば保冷車が駆け付けてくれる。ただ、夜中は対応していない。

実は、佐久地区には以前から「血液緊急輸送体制」があった。浅間総合病院内の血液保冷庫に各血液型が保管され、地区の病院が使えるというものだが、「血液センターは何も宣伝せず、事業報告書への記述もないので皆、知らなかった。こうしたシステムをもっと活用しなくてはならない」(小泉院長)。

日赤の試算によれば、搬送時間は全国平均で来年度に1時間40分、13年度には2時間11分になる。秋晴れの続く今はいい。が、信州の冬は最高気温が氷点下の世界。道路はカチンカチンに凍る。高速が使えなくなったときに製剤供給は滞らないのか。初めての冬を前に、医療現場は緊張している。

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