新たな地域医療格差? 必要な血液は届くのか、日本赤十字の危うい集約戦略

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米国赤十字は“失敗”開かれた議論必要

「集約化は欧米各国もしている。いわば世界の流れだ」(日赤の西田氏)。たしかに米国赤十字社(ARC)も以前からハブ(拠点)化を進めてきた。米国ではARCに加え米国血液銀行協会(AABB)、米国血液センター(ABC)の3事業体が血液事業を担っている。米国事情に詳しいHLA研究所の佐治博夫所長は「ARCはほかの2者より低い評価を補おうと、今から約20年前にハブ化を打ち出した」と言う。末端のセンターは献血者のリクルートと採血だけを担当、検査・製剤化を全米数カ所に集約し、血液製剤は送り返して末端の血液センターから供給しようとするものだった。シナリオは今の日本の集約化に似ている。

が、ハブ化後のARCはトラブルを連発。献血者の事前スクリーニング不足、梅毒検査の失敗、検査不合格血液の処分の失敗……。採血時の消毒の不足まで指摘されるまでになり、今年1月には米国食品医薬品局長官がARC理事会に乗り込み、“改善命令”を下す事態になっている。「受益者の最大利益を追求するならば、地域社会に密着した血液事業へ戻すべき」と佐治所長は主張する。「ABC傘下の血液センターはすべて地域社会がつくったもので、技術的にも科学的にも世界最高の水準にある。地域社会への貢献というモチベーションは保ちやすく、また向上させやすいからだ」(同)。

日赤は「来年度の18カ所計画は現在の有効期間基準の範囲内で可能であろう。最終的に11カ所に集約するには、血小板の有効期間延長や病原体不活化技術の導入など品質上の安全性がある程度担保できる形にならないと厳しいだろう」(前出の西田氏)との見方を示す。「本部としても有効期間延長や移動における安全性の担保をデータで示し、評価もしていただかなくてはいけない」(同)とも言う。

長野では集約化前に地元から不安の声が上がり、今年8月まで5回にわたる「あり方検討会」で議論を重ねたうえで集約化を実現した。にもかかわらず、医療現場の不安は消えない。国民へ不安の連鎖が生まれないうちに、あらためて開かれた議論が必要ではないだろうか。後期高齢者医療制度、療養病床削減--。国民不在の医療制度改革の結果を、私たちはもう十分見てきたはずだ。

(週刊東洋経済)

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