「神奈川高校野球」はなぜ毎年アツすぎるのか 県の頂点から日本一を目指して戦う監督物語

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第100回全国高校野球選手権の神奈川大会は県内を南北に分割し、出場枠が今年は2枠になります。写真はイメージ(写真:dramaticphotographer / PIXTA)
節目の100回大会を境に全国一の激戦区、神奈川の勢力図はどう変わっていくのか――? 神奈川高校野球で戦い、次の時代を作る14人の監督物語を描いた『激戦神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち』の著者、大利実氏が紹介します。 

横浜と東海大相模のライバル物語

2015年7月28日、ひとつの時代が幕を閉じた。

神奈川大会決勝──、東海大相模9対0横浜。この敗戦をもって、甲子園通算51勝、春夏5度の日本一を遂げた横浜・渡辺元智監督が勇退した。最後の相手は、門馬敬治監督率いる東海大相模だった。横浜と東海大相模といえば、長きにわたり名勝負を繰り広げてきたライバルである。

渡辺監督は1968年、24歳の若さで監督に就任すると、1973年春のセンバツで初出場初優勝を達成。だが、日本一になっても、どうしても勝てないのが、1966年から原貢監督が指揮を執っていた東海大相模だった。

原貢監督は前年(1965年)夏、福岡の三池工を日本一に導いたあと、東海大学の創始者・松前重義総長の誘いを受けて、創立4年目の東海大相模の監督に就任。神奈川の地でもすぐに結果を残し、1970年夏には自身2度目の全国制覇を果たすなど、在任11年で夏3連覇(1974~1976年)を含む春夏8度の甲子園出場と、輝かしい実績を残した。息子・原辰徳(元巨人監督)とともに日本一を目指し、「親子鷹」としても注目を集めた。

渡辺監督は1969年夏決勝、1971年秋準々決勝、1972年夏準々決勝、1974年夏決勝、1974年秋3回戦、1975年夏3回戦、1976年秋準決勝と、甲子園をかけた大会で原貢監督にことごとく負け続けた。通算成績は2勝7敗だった。

「東海大相模というよりも、原さんを強く意識していました。『打倒・原貢』ですよ。原さんを越えたい。原さんの野球は力の野球。ならばと、私もバッティングに力を入れて、力と力で対抗していました」(2013年刊 日刊スポーツ出版社『高校野球 神奈川を戦う監督たち』より)

戦いを繰り広げるなかで、原監督が渡辺監督を自宅に招き、野球談義に花を咲かせたこともあった。その後、原監督は息子の大学進学に伴い、1977年から東海大の監督に就任した。

ここから、神奈川の勢力図に変化が見え始めた。

1977年は穴見寛監督の東海大相模が夏4連覇の偉業を遂げるが、翌年夏は1年生エース愛甲猛(元ロッテなど)を擁する横浜が優勝。渡辺監督にとって、夏の大会は初めての優勝だった。さらに、1980年には夏の甲子園で全国制覇。以降は、横浜商・古屋文雄監督、桐蔭学園・土屋恵三郎監督(星槎国際湘南)らと覇権を争うようになり、東海大相模は1981年から1983年まで原貢監督が再び指揮を執るが、1977年を最後に夏の甲子園から遠ざかった。

渡辺監督は1990年秋から高校時代の同級生・小倉清一郎氏とタッグを組み、高い能力を持った選手に、勝つための細かな野球を注入した。そして、1998年には松坂大輔(中日)を擁して、史上5校目の甲子園春夏連覇を成し遂げた。

横浜が栄冠をつかんだ翌年4月――、東海大相模では監督の交代があった。

村中秀人監督(東海大甲府)に代わり監督に就いたのが、それまでコーチを務めていた門馬敬治監督だった。当時29歳。東海大時代に原貢監督の教えを受けた若き指揮官は、就任2年目の2000年に筑川利希也投手(HONDAコーチ)を擁して春のセンバツを制覇。タテジマ復活を強く印象づけた。だが、渡辺監督のいる横浜にはなかなか勝てなかった。

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