東京東部から病院が消えていく--看護師不足が招く経営危機

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看護師確保に希望の光がないわけではない。

多くの病院が看護師不足に苦しむ中で、今年1月から9月までに40人の看護師採用を実現したのが、足立区の東京北部病院(河一京院長、138床)だ。足立区の西部に位置する同病院は、急性期78床、慢性期60床からなる典型的な中小病院で、心臓カテーテル手術など循環器科を得意としている。1年半前に経営母体が変更しており、経営の安定化に向けて、常勤医師や看護師の確保に力を入れている。特に看護師対策については、特筆すべきものがある。

24時間の託児所を開設 増員にこぎ着けた病院も

同病院の五十嵐里香看護部長は、06年3月の赴任時に、当時閉鎖中だった2階病棟(30床)の再稼働を病院の目標として掲げることを進言。その後、経営者の決断により、24時間稼働の託児所開設を実現。看護部では復職支援セミナーの頻繁な開催で働きやすい職場をアピールするとともに、紹介業者経由での看護師の採用も積極的に進めていった。

東京北部病院はこれまでにも家賃が低額の看護師寮を設けたり、駐車料金の半額補助、実務経験を100%勘案した基本給など、「看護師が働きやすい職場づくり」(五十嵐部長)を前面に掲げてきた。

そうした姿勢が紹介業者を通じて求職中の看護師の間で認知されてきたこともあり、「看護師の増員が軌道に乗ってきている」(五十嵐部長)という。

そして今後はさらに10名の採用が実現すれば、すべての病棟において、「10対1基準が取得できる」と五十嵐部長は語る。これは、13対1が一般的な中小病院では画期的であり、看護のレベル引き上げにも大きく寄与するに違いない。

東京北部病院の取り組みには、地域医療の危機の中で懸命に生き残りを図る中小病院関係者の知恵が凝縮されている。待遇改善の取り組みは、ほかの民間病院にも一石を投じる可能性がある。看護師不足の実情を世の中に訴えていくとともに、看護師が働きやすい現場へいかに改善していくか、医療関係者の努力が試されている。

(週刊東洋経済)

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