「在韓米軍の撤退」が現実的とはいえない理由 朝鮮国連軍の解体のみ行われる可能性が高い

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さらに、在韓米軍の費用について、ニューシャム上席研究員は「トランプ大統領は在韓米軍が撤退すれば、米国は多額の資金を節約できると述べた。これは明らかに間違いだ。節約して貯めたすべてのカネは、いざ朝鮮半島で武力衝突が起きれば最初の5分間で食い潰されることになる」と話した。

同じ海兵隊出身のジム・マティス国防長官もきっと同じように考えているはずだ。

マティス国防長官は28日、訪問中の韓国でソン・ヨンム国防相と会談し、在韓米軍の規模は、現在のレベルを維持すると明らかにした。

「韓国に対するアメリカの関与は揺るぎなく、これを維持するために今後もあらゆる外交と軍事力を投じる」と述べ、韓国で高まっていた米韓同盟の弱体化をめぐる懸念を払拭した。

朝鮮国連軍解体の可能性

米国と北朝鮮との交渉が円滑に進み、今年中に朝鮮戦争の終結宣言が出されれば、現実的には在韓米軍の縮小や撤退ではなく、在韓朝鮮国連軍の解体が真っ先に議題になり、実行される可能性が高い。

朝鮮戦争を終結させることは、1953年7月に締結された停戦協定が効力を失うことを意味する。そして、それは、北朝鮮の朝鮮人民軍と中国人民義勇軍とともに、停戦協定の締結主体である国連軍司令部が解体されることにつながる(国連軍司令部は1950年7月、GHQがあった東京に設立、1957年7月にソウル中心部の米軍の竜山[ヨンサン]基地に移された。在韓米軍が6月29日、その司令部をソウル南方の京畿道平沢市にある米軍基地キャンプ・ハンフリーズに移転したのに伴い、 国連軍司令部も同所に移された。国連軍司令官は在韓米軍司令官が兼務している)。

国連軍司令部が解体されれば、同司令部と日本政府の間で1954年に結ばれた、国連軍の日本国内における在日米軍基地使用に関する地位協定がなくなる(日本が協定を結んでいるのはイギリス、オーストラリア、フランス、カナダ、ニュージーランド、トルコなど11カ国。横田基地、横須賀基地、キャンプ座間、佐世保基地、沖縄の嘉手納基地、普天間飛行場、ホワイトビーチの7カ所の在日米軍施設・区域の使用を認めている)。この地位協定に基づき、豪州・カナダ両軍は今春、北朝鮮の船による密輸、いわゆる「瀬取り」行為を取り締まるため、沖縄のアメリカ軍嘉手納基地を拠点として使用した。

さらに、国連軍司令部がなくなれば、横田基地にある国連軍後方司令部も解体される可能性が高い。

一方で、在韓米軍は、1953年10月に締結された米韓相互防衛条約(1954年11月に発効)締結に基づく米韓同盟で定められた駐留の枠組みだ。その撤退は米韓で決められるものであって、平和協定の締結で解消されるものではない。

停戦協定から平和協定に転換する際、北朝鮮がアメリカのかつての「協定破り」を蒸し返し、主導権を握ろうとするかもしれない。停戦協定第4条60項では、休戦協定締結から3カ月以内に、「韓国からのすべての外国軍隊の撤収」問題を協議することを規定したが、アメリカ軍は撤退せずに今日まで至っている。一方、北朝鮮側では中国軍は撤退した。停戦協定締結からわずか3カ月後に、米韓が米韓相互防衛条約の第4条で在韓米軍の駐留を決めたのだ。

また、休戦協定の第13項(d)は、南北朝鮮が朝鮮半島に新しい武器を持ち込むべきではないと規定したが、米軍は1957年以降に戦術核を韓国に持ち込み、1991年まで配備していた。

6月25日で朝鮮戦争勃発からちょうど68年が経った。長年敵対関係にあった米朝が歩み寄り、「非核化」や「安全の保障」で具体的な合意が無事になされるのか。いずれにせよ、朝鮮戦争以来の大きな地殻変動が東アジアで起きていることは間違いない。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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