発達障害の人は企業で「貴重な戦力」になるか 東京海上の特例子会社事例で考える

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「私どものような特例子会社で良いのか、それとも一般企業の中で障害者枠で入社して健常者と一緒に仕事をしたほうがよいのかというと、まだちょっとわからないところがあります。東京オフィスだと、軽度の知的障害と発達障害の方がフロアで40人くらいいますが、ほとんど高卒の方です。これから大卒で新卒の障害者が入ってきたときに、どのような仕事を用意できるか、業務内容や処遇とかについても、考えなければならないことが多いと思います」(山田部長)

現状は議論の最中であり、なかなか答えが出せないという。通常の一般企業であれば、高卒と大卒を比較すると、大卒のほうが処遇が良いのが当然だが、同社の場合ではむしろ就労支援を受けた高卒や特別支援学校卒業の人のほうが、即戦力となることが多い。したがって大卒の処遇を良くしてしまうと、仕事のスキルと反比例してしまう問題も出てくるため、それはなかなか難しいという。

会社側も試行錯誤しているところだが、これから大卒で就労しようと発達障害者の人は、卒業後に就労支援機関で職業訓練を受けてから、入社するということも視野に入れたほうがいいかもしれない。

特例子会社はグループ内での理解が重要

それでは、東京海上グループ全体での理解度はどれほどなのだろうか。

「法定雇用率を満たすことだけではなく、障害を持つ社員が生き生きと働けるように、どのような仕事を担ってもらえるかを考えています。特例子会社だけで仕事を考えるのではなく、東京海上グループという広い視点で、です。

具体的には東京海上日動の各部門の担当者が集まってプロジェクトチームを作って、どのような業務を切り出すことができるか毎月検討しています。たとえば、グループ外にアウトソーシングしている仕事で、特例子会社でできる業務があるかどうかを話し合います。また、障害を持つ方が高い品質で仕事をするにはどうしたらよいかといった業務プロセスなども、その場で打ち合わせをしています」(東京海上ホールディングス人事部マネージャー本橋卓也氏)

東京海上ホールディングスは、「1番大切なのは、法定雇用率だけに振り回されず、就労した人が長く働ける環境を作っていくことだ」という。

雇用する側とされる側。どちらも歩み寄りながら、発達障害者の特性を生かしたトライアルを積み重ねていっているというのが、今の実態なのだ。

草薙 厚子 ジャーナリスト・ノンフィクション作家

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くさなぎ あつこ / Atsuko Kusanagi

元法務省東京少年鑑別所法務教官。日本発達障害支援システム学会員。地方局アナウンサーを経て、通信社ブルームバーグL.P.に入社。テレビ部門でアンカー、ファイナンシャル・ニュース・デスクを務める。その後、フリーランスとして独立。現在は、社会問題、事件、ライフスタイル、介護問題、医療等の幅広いジャンルの記事を執筆。そのほか、講演活動やテレビ番組のコメンテーターとしても幅広く活躍中。著書に『少年A 矯正2500日全記録』『子どもが壊れる家』(ともに文藝春秋)、『本当は怖い不妊治療』(SB新書)などがある。

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