老舗大手が100店閉鎖!英国を襲う消費激変 ネットだけが敵じゃなかった

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BBCニュースが報じたところによると、市場調査会社「スプリングボード」のダイアン・ウエール氏は、「投資とイノベーションの欠落」を不振の理由として挙げている。フロア構成、品ぞろえやオンライン上のサービスに投資してこなかったという。

百貨店というビジネスモデルそのものへも疑問が呈されている。かつて、その特徴は「ありとあらゆる品物が1つの屋根の下でそろう」ことだったが、オンライン・ショッピングが普通になった今、これだけでは弱い。また、百貨店はこれまでファッション衣料に主眼を置いてきたが、「可もなく不可もない」品ぞろえになりがち。それより今は、より個性的で、手ごろ感がある安いブランドが人気だ。

付加価値のある商品や廉価品が人気

消費者のお財布事情も大手小売業不振の背景にある。ブレグジットが決定してから、ポンドは対ユーロなどで約15%下落する一方で、インフレ率は約3%に上昇した。海外からの輸入品が以前よりは高額になり、これが小売価格に反映される。賃金の上昇率はインフレ率より低いため、過分所得が減少している。 

英国の小売業界で最も窮地に陥っているのは、価格帯が中間にある小売業やマス市場を狙う小売業だ。逆に、元気がいいのは付加価値付きの商品市場か廉価市場にいる小売だ。

上記に入るのが、カラフルなカントリースタイルをテーマにしたファッション・ブランド、ジュールズ、カカオ豆の栽培から手掛けてチョコレートを販売するホテル・チョコラット、「 Superdry極度乾燥(しなさい)」など日本語の文字が入った洋服を売るスーパーグループ、スポーツ・ファッションに特定したJDスポーツなどである。

低価格で衣料品を販売する「プライマーク」のウィンドウ(筆者撮影)

廉価市場を狙って成功しているのが、衣料品ではプライマーク。床面積が広く、店内で販売される品目はほとんどが10~15ポンド。白い半そでTシャツは2.5ポンドほどで買える。英国には中古の品物をそろえる「チャリティー・ショップ」と呼ばれる小売店舗がたくさんあるが、ここと比較してもプライマークの価格帯は魅力的だ。M&Sを含むほかの衣料小売りでは同様のTシャツは安くても6ポンド。価格だけでは、プライマークには勝てない。しかも、リアルな店舗だけではなく、プライマークにはインスタグラムに530万人のフォロワーがあり、ネット上の存在感も大きい。

食料品分野で強いのが、ドイツからやって来たディスカウント・スーパー、リドルとアルディ。当初は「所得の低い人が買い物をする場所」として見られていたが、実は中流階級がこっそりと安いワインやチーズを買いに出かけている。リドルやアルディは低価格の上に質も高い商品をそろえるようになり、中流階級も堂々と行ける場所になりつつある。一方、他のスーパーには低価格化へのプレッシャーがかかるようになった。

今後も、英国の商店街では「顔」の交代が続きそうだ。時代の変化に適応できない小売は消えてゆく。リアルの店舗ではなく、オンラインでのショッピングが常態化する中、商店街がショールームとしてのみ存在する日はすぐそこまで来ている。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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