老舗大手が100店閉鎖!英国を襲う消費激変 ネットだけが敵じゃなかった

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ビデオやDVDをレンタルできるブロックバスターが通りから消え、書店が別の小売りの店舗に変わっていった。筆者の住む最寄り駅のプラットフォームには新聞販売店が毎朝スタンドを設け、通勤客に新聞を売っていたのだが、今やスタンドはなくなり、駅前にあった販売店は電子タバコを売る店に変わった。

ロンドン郊外の主要ショッピング街の1つ、キングストンを歩いてみた。かつて米書店チェーンのボーダーズがあった、チューダー朝の建物には衣料店ネクストが入り、グリーティング・カードを売っていたカード・ファクトリーのウィンドウには「閉店」のポスターが出ていた。

目抜き通りには買い物客が、多く活気はあるものの、閉店を通知するポスターも所々に出ており、回転の激しさを象徴しているかのようであった。M&Sは商店街の中心に2つに分かれて店舗を展開していたが、売り場面積を広げて改装後に新オープンとなったプライマークに多くの人が流れてゆく。

小売業界の危機の原因は何か。筆頭に挙げられるのは、インターネットの影響だろう。各小売業はオンライン上のライバルと本気で戦わなければならなくなった。現在、英国の小売り収入の約5分の1がオンライン・ショッピングによる。わざわざ商店街に足を運ばなくても、買い物ができてしまう。通りを歩く人に品物を買ってもらうことをあてにしてきた小売店はその道をふさがれてしまった。ネットサイトを通じて品物を交換し合う(たとえばフェイスブックの友人・知人同士で赤ちゃん用品を交換する)ことも可能になった。

経費増加もネックになっている。2016年の国民投票で「ブレグジット(英国の欧州連合からの離脱)」が決定されてからポンドが下落。海外から商品を調達していた小売業は経費増加に苦しむようになった。

ネットショッピング対応遅れが致命傷に

1990年代以降、英国で人気が出たのが1ポンドでさまざまなものが変える「ポンド・ショップ」。日本の「100円ショップ」に相当する。その1つがパウンドワールドだったが、ポンド下落がビジネスを直撃し、経営が破綻した。

今年上昇した、事業用資産に対する固定資産税(「ビジネス・レート」)の影響も大きい。ロンドン中心部では2倍になったところもあるという。不動産コンサルタント業「アルタス・グループ」の調べによれば、ロンドン市内の約1400の店舗、パブ、レストラン、ホテルなどはビジネス・レートの支払いが平均5万ポンドの上昇になった。

経営の見立ての失敗もその一因だろう。ネットショッピングは昨日や今日始まったことではない。しかし、これにどれほど迅速に、かつ大規模に投資をしてきたのかが問われている。たとえば、衣料品小売り「ネクスト」は年間収入約40億ポンドの半分近くをオンラインショッピング部門に投資している。しかし、先のM&Sの投資額は4億ポンドで、経営陣はサイトがまだ十分に使いやすくなっていないことを認めている。

昨年11月、創業から17年目の衣料販売サイトASOSの時価総額はM&Sを超えた。サイトは毎週約5000の新製品を掲載する。M&Sのオックスフォード店が店頭に出す商品とほぼ同じ数である。

「十年一日のごとし」型の小売りも「負け組」となる。2008年破綻のウールワースがその典型だが、今でいうとハウス・オブ・フレイザーやデベナムズなどの百貨店がこれに入る。

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