フォード「マスタング」しぶとく残る車の真価

乗用車不振の中、イメージリーダーを守る

それゆえか、アメ車らしさを失い、この頃のマスタングは人気がない。フォードの対日本車シフトがさらに加速したのは1980年代後半で、この頃マツダとの協業が進んだフォードは、次期マスタングをマツダ「MX-6」(カペラ)ベースのFF(前輪駆動)にしようとしていた。

さすがにV8エンジンを搭載できないFF車でマスタングを名乗ることに、社内でも反対論が出て、このFFクーペは「フォード プローブ」という別の名前で販売され、代わりに1978年登場の3代目マスタングが1993年まで延命されることになった(余談だがカペラと聞くと、アラン・ドロンがカペラ セ モン プレジール"Capella, C'est mon plaisir"/私の喜び)と言っていた当時のCMが筆者世代には懐かしく思い出されることと思う)。

そんな紆余曲折はあったものの、マスタングは一度も途切れることはなく現代まで続いている。ライバルのカマロが2002年以降、2009年までの間に生産中止の憂き目に遭い、ファイヤーバードに至っては、2002年を最後に販売中止となり、揚げ句にポンティアックというブランドそのものが消滅してしまったのとは対照的だ。

2005年登場の6代目マスタングはフォードの「リビングレジェンド戦略」に基づいて、初代のデザインを現代風にアレンジしたものとし、当時を知る熟年から、伝説として初代にあこがれていた若者まで取り込んでヒット商品となった。

これに影響されて、GMもマスタングの往年のライバルであったカマロを7年のブランク期間後に2009年に復活。クライスラーも2008年に「ダッジ チャレンジャー」を復活し、マスタング人気に対抗した。それほど6代目マスタングが業界に与えた影響は大きかった。

かつては米国クーペ市場を席巻した日本車のクーペ軍であるトヨタ「セリカ」「スープラ」、日産「SX」(日本名シルビア)、ホンダ「プレリュード」「インテグラ」などが軒並み消滅してしまった後に、6代目マスタングは押し出しの効いたクーペスタイリングにハイパワーエンジンを押し込んだポニーカーの需要が現代にも根強いことを証明して見せた。

とはいえ超高齢化社会の日本と違い、移民流入もあって先進国の中でも健全な人口構成の米国では、シニア世代だけを相手にしてもビジネスは成り立たない。日本では若者層狙いの商品企画は成立しづらいが、アメリカでは過去数十年つねに、「Gen-X(ジェネレーションX)」や、「Gen-Y(ジェネレーションY)」、最近ではミレニアル世代が消費動向の中心である。したがって“昔の名前で出ています”、だけでは商売が成り立つはずもなく、若者をターゲットにしたマーケティングにもしっかりと配慮している。

若者層にも広くアピール

まずGMが、2007年に始まった映画『トランスフォーマー』シリーズの準主役キャラのバンブルビーとしてカマロを提供。フォードはこれに対抗して2008年に映画『ナイトライダー』の準主役キャラの人工知能搭載のスーパーカー、ナイト2000役にマスタングを提供した。筆者の世代には懐かしい“ナイトライダー”の1980年代のオリジナルTVシリーズでは、マスタングのライバルであるGMのファイヤーバードが主役であり、当時、ナイト2000と同じ黒のファイヤーバードが全米で人気が出たほどであった。

2008年の映画版ではマスタング(正確にはそのハイパワー版であるシェルビー GT500)に寝返ったのは面白い現象である。結果的に違和感があったのか、映画版『ナイトライダー』は『トランスフォーマー』のような成功には至らなかった。

映画やTVに商品を登場させる手法はプロダクトプレースメントと言って、古くは『007』映画のAston Martinや、Omegaの時計、あるいはトヨタ 「2000GT」などで知られる。ただ、昔は映画製作陣が車やバイクが必要な際にいちいち購入していたのでは経費が嵩むので、メーカーに協賛を求め、メーカーが無償で商品を提供するというおおらかなものであったが、21世紀になってからは高額なスポンサー料とセットになるようになった。

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