ベトナムで反中感情が再燃している必然理由 政府の外資誘致に抗議デモ

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人々の怒りは中国だけではなく、汚職が多く、破壊的な中国の商業的利権の言いなりだとみられている地方政府にも向けられている。「人々がなぜ怒っているのか調査せず、問題を解決することもない。この地域では、当局への信頼はすでに失われてしまった」と同氏は語る。

今回の抗議行動における規模と連携は、ベトナム一般市民を勇気づける一方で、ある程度の異議申立てを許容しつつ統制を維持するという与党共産党の綱渡りを困難なものにしている、とアナリストは語る。

急成長するベトナム経済を人質に取ることが可能な、重要な貿易相手国である中国を怒らせるリスクも生じている。

巧みな扇動

中国側はこうした抗議行動を真剣に受け止めている。ベトナム駐在の中国外交官は今月、中国の経営者団体やベトナム政府、現地メディアと会合を重ねた。

在ベトナム中国大使館によるウェブサイト上の投稿によれば、Yin Haihong代理公使がベトナム当局に対して、中国企業と中国市民を保護するよう「要請」した。同大使館は、ベトナム当局から「隠された動機」を持つ者が「意図的に状況を歪めて表現し、中国と関連づけている」との報告を受けたという。

過去にもベトナムでは今回と同じような抗議運動が発生している。2014年には、中国が中部ベトナム沖に石油掘削リグを配備したことに対する抗議行動があり、2016年には台湾プラスチックグループ(台塑集団)<1301.TW>が運営する製鉄プラントでの環境汚染事故を巡って数カ月におよぶデモが繰り広げられた。

ベトナム外務省報道官は、ロイターの質問に対して、中国には触れずに、「過激派」が「違法な集会を扇動」したと回答。また、ベトナムの政策は国民利益に奉仕するものであり、企業と投資を支援していると付け加えた。

フェイスブックで多くのユーザーからフォローされている著名弁護士Nguyen Van Quynh氏は、抗議行動が組織的なもので、暴力行為が扇動されていることは明らかだ、と語る。これらは、細心の計画が立てられ、国の治安維持手続きについての知識を有していることも示しており、ビントゥアン省が当局の弱点になっていたと指摘する。

「抗議行動や暴動は、ますます大規模で、組織だった巧妙なものになっており、こうした組織化の知識やスキルを持つ人物や中心的グループが存在する可能性を示している」と同氏は述べた。

現旧の国会議員からは、長年にわたって先送りされてきたデモ規制法案を、再び検討すべき時期が来たとの声も上がっている。憲法では集会の自由が保障されているが、抗議行動は警察によって解散させられる場合が多く、参加者は「治安の乱れ」を招いたとして拘束されている。

一方で、もっと世論に耳を傾けるべきだという声もある。

「政府は、国民が何を気にしているのか配慮する必要がある」とベトナム国会事務局のグエン・シ・ズン事務次長は語った。

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