波はあれども、目標に向かって努力を続けた諒珂くんの頑張りもあり、志望校合格率は8割と言われた6年の秋。だが、いよいよ受験の3カ月前になって、過去問を解くとなかなか合格者最低点を超えることができなくなってしまった。まさかの直前スランプだ。これには今まで懸命に頑張ってきた諒珂くんも、焦った。「テストを受けるのが怖い」と泣き出すことさえあった。
「これはもう私だけじゃやっぱり支えられない、と思って。『もう一度3人で話し合いをしたいです。仲間に入ってください』と夫にお願いしたんです」(美樹さん)
このときばかりは義一さんも真剣に向き合ってくれた。「せっかく頑張ってきたのに、息子が実力を出せずに受験が終わってしまうのでは、とようやく危機感を抱きました」と、3人揃って受験までの作戦会議を開いた。
誰が主導で会議をやるかでずいぶん変わる
まずは志望校のランクを思い切って下げるのがいいのか、ほかに本人が納得して通える学校はあるのか、それとも今から成績を挽回できそうなのか。そこに親が手伝えることはあるのか。この時は義一さんが議長になって、「客観的な現状把握」と「今からできること」にだけ徹底的に焦点を当てる会議を行った。すると落ち込んでいたはずの、諒珂くんや美樹さんの気持ちも変わっていったという。
「『わ、お父さんが本気になってる』って驚きました(笑)」と諒珂くんが言うように、義一さんの熱心さに導かれ、その日の会議では、志望校は変えなくてもおそらく大丈夫だろうということ、その代わり苦手分野を克服するための勉強をみんなで応援することが、あっという間にまとまった。
「夫はいつも論理的で、この目標のためにじゃあどうするか、何ができるかと言う話し方をするんですね。その姿を見て、私のは話し合いじゃなくて、どうしようどうしようと、言っていただけだったんだ、と気づかされましたね(笑)。家族会議は誰が主導でやるかでこんなにも違うんだなあって」(美樹さん)
そう言う美樹さんと諒珂くんをもっと感心させたのは、義一さんが夜なべで作り出したお手製の復習学習ファイルだった。
家で勉強するための復習ドリルや、混み合う車内で復習するカードが次々作られるのを見て、諒珂くんもがぜんやる気を取り戻した。そして受験本番。朝、テーブルの上には、うっかりミスが多い諒珂くんに注意力を取り戻させるための、試験当日の応援メッセージが置いてあった。
2月。諒珂くんは受験した4校すべての合格を手に入れた。試しで受けた第一志望よりも高いレベルの学校にも合格できたと言う。レベルが高いほうを薦める声もあったが、田中家はもう一度話し合い、諒珂くんが最初に「自分が通っている姿が想像できた」と言った学校を選んだ。そして今、彼はそのイメージどおり、のびのびと、憧れの校舎を歩いている。
受験などといった難しい議題の場合、当然楽しいだけの会議は開けない。田中家が陥ったようにただのけんかにつながることもあるだろう。でも、だからと言って話し合うことを辞めずに、お互い思うことを出し合っていけば、時には「はっ」とするほど、家族が団結する話し合いができることがある。
田中さんのケースは、家族会議を長いスパンで継続していくことの意味を教えてくれた。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら