大企業からの「チャレンジ転職」は広がるか 安定したレガシー企業から脱出する人たち

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取材したメガバンクからベンチャーの管理部門に転職したSさん。前職であれば10年くらい経たないと任されない仕事を現在は一人で仕切っているとのこと。指導してくれる上司もいないので、すべて自分で考えてやり切る必要があります。彼はこうした職場環境を「大変」と歎くのでなく、「やりがいを感じる」「ベンチャー企業に転職してよかった」ととらえ、充実した日々をすごしているとのこと。

「使命感」を醸成する職場環境

年収はメガバンク時代に比べて1割ダウン。計算上は「損」に見えます。でも、職場の雰囲気がそのように感じさせないようです。理由は報酬だけでは得られない「使命感」を醸成する職場環境があるから。

使命感とは自分に課せられた任務を果たそうとする気概のことですが、やりがいの醸成ともいえます。人にとって比較的高次元な欲求のレベルのこと。

たとえば、取材したベンチャー企業では「日本の●●を変える」とクレド(信条)を定めて、社内で徹底的に意識合わせを行っていました。職場に勤務している大企業からの転職組からすれば画期的な取り組みと感じるようです。前職の大企業時代は、会社のビジョンのことなど気にしたことは一度もなかったとのこと。ところが転職したベンチャーでは経営者から発信されるメッセージ等で耳にたこができるくらいにビジョンを刷り込まれます。自分でも不思議なくらい使命感が高まり、収入ダウンしたものの、高いモチベーションで仕事に取り組む日々が続いているとのこと。

Sさんのようにその企業のビジョンに共感し、自分も使命感を得たいと感じる若手社会人によるベンチャーへのチャレンジ転職。今後少しずつではあるでしょうが、増えていくのではないでしょうか? それは、使命感を感じながら仕事ができることに幸せを感じる人が相当数いると思うからです。

ちなみに使命感を近い言葉に置き換えると「働きがい」となるかもしれません。この働きがいが高いと評価されているベンチャー企業は、給与水準や企業ブランド力で大企業に負けているかもしれませんが、転職先として高い人気を誇る会社がたくさんあります。ベンチャー企業ならどの会社でもいいということではなく、使命感、働きがいのあるベンチャー企業が若手社会人にとって貴重な選択肢なりつつあるのです。

企業が転職したい存在になるためには、使命感の醸成は重要度を高めると筆者は思います。そこで大企業に比べて採用力で劣勢のベンチャー企業は知恵を絞って環境整備に取り組むべきでしょう。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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