「独居認知症」あなたが知らない強烈な現実 本人や周囲が用意できることはあるのか

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結局、三浦さんは2軒の一戸建てと、2部屋のマンションを古着の山にしてしまった。4軒ものマイホームを持つ三浦さんだが、自分が暮らすスペースは仏壇の前のわずかメートル四方だけ。食事をする場所がないので、スーパーで買った冷たいままの弁当を玄関の前に座り込んで済ませている。

第三者からすると、財産管理や健康状態に問題はないのかと心配になるが、本人は週数回のデイサービスに行くのを楽しみにしていて、困った様子を一切見せることもなく、この暮らしを満喫している。

30年以上にわたり介護の仕事に携わってきた「あうん介護センター」の介護支援専門員・中馬三和子さんは数年前の冬、神奈川県川崎市の道端で倒れていた80代男性の黒川修さん(仮名)を保護したことがある。

自宅が糞尿まみれでも、本人に悲壮感はなかった

中馬さんによると、黒川さんはガリガリにやせ衰えて、数メートル先まで尿臭が漂っていた。黒川さんは定年退職後、やることがなくなり、ろくに食事もせず、毎日缶ビールを飲んで過ごしていた。そのうち風呂に入る、着替えるといった日常のことができなくなって体が衰弱。やがて、失禁するようになった。

強烈な尿臭の原因は、失禁しても着替えることができず、そのまま乾いて、また失禁して……を何日も繰り返しながら履き続けていたデニムのパンツだった。あうん介護センターが黒川さんを送り届けるときに足を踏み入れた自宅は、糞尿まみれだったという。

ところが、そんな状況になるまで、黒川さんは誰かに助けを求めることはなかったし、当人に悲壮感はまったく見られなかった。

一人暮らしで認知症だというと「さぞかし本人は大変だろう」と思うかもしれない。しかし、当事者は認知機能が低下してしまっているため、「悲惨なこの状況をどうにかしたい」とか「困っているから支援してほしい」と、判断できない状態にあることが多い。信じられないかもしれないが、転倒・骨折しても、痛みを訴えられず、そのまま過ごしていることもあるという。

認知症が進むと、洋式トイレを見てもトイレだとわからなくなる人がいる。おそらく、和式のトイレで過ごしてきた期間が長く、洋式トイレになじみが薄いためだ。洋式トイレを便器だと認識できなくて、どうしていいのかわからず、洗面台を便器だと思って、そこに排便をしてしまうのだという。洋式便器にたまった水を手洗い場だと認識して、そこで手を洗う人もいる。それでも当事者たちは、平然とした様子で暮らしている。

2025年に日本の認知症患者は65歳以上で約5人に1人に上ると推計されている。しかも、65歳以上の単身世帯は36.9%に及ぶ見込みだ。本人の子どもを含めると、「独居認知症」は身近に起こりうる問題だと言える。

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