バルミューダ「高級トースター」の次の生き方 寺尾社長が語る商品開発からIPOまで

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今まで私の頭の中には、「会社とお客さんがどこまで噛み合えるか」しかなかった。上場したら、ここに株主というギャラリーができることになる。せっかく素晴らしい試合をするのなら、相手と自分だけより、山ほど観客がいたほうが燃えるだろう。仮にヤジが飛んできたとしても、「もう、いいから全員まとめて幸せにしてやるわ」とガッツが生まれる。

それに向けて、管理体制も強化していく。私のこれまでの人生は基本、「勘と気合いとラッキー」で彩られてきたため、管理は大の苦手。創業当初の社員数が少ないときは野武士の集団で、各人が朝出て行って、夕方帰ってきて、成果がある人もない人もいる、という仕事のやり方だった。

だが、100人の会社でそれをやったら成り立たない。連絡経路を明確化し、開発のプロセスのルール化をしている。部品の購入も、細かいものまで稟議書をあげなくてはいけない。これにより、これまでのようなスピードで開発ができなくなるかもしれないが、業務の質は確実に良くなる。

どれだけ興奮しながら仕事をできるか

ただ、現時点では、そこまで大きな資金調達の需要がない。会社が小さなときは、家電を一つ作るために、びっくりするような金型代がかかっていた。ただ、現在は会社の規模が大きくなる中で、相対的に金型代の負担は少なくなってきた。

寺尾玄(てらお げん)/代表取締役社長。1973年生まれ。17歳のときに高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを放浪の旅をする。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、もの作りの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。同社代表取締役(撮影:今井康一)

むしろ、今の一番の悩みは、トースターの「次」の大ヒット商品が生まれていないことだ。今年の秋に出るものが、それくらいのヒット商品になればいいな、と。今はちょうど開発が山場に差し掛かったところで、涼しくなるころには皆さんにお知らせできると思う。

――出したからといって、必ず当たる保証はありません。ミュージシャンから転身して会社を立ち上げた社長にとって、もともと商品を作るのは、歌を歌うような「自己表現」だったかもしれません。今、そこに変化はありますか。

会社のコアは私でしかあり得ないが、100人を超える仲間がいるのは大きな違いだ。設立当初は冗談ではなく、失敗したら自己破産すればいい、臓器を売ろう、と思っていた(笑)。

だが今は、社員に対する責任がある。責任といっても、路頭に迷わせるんじゃないか、という意味での責任感はあまりない。どれだけ、興奮しながらできる仕事を提供できるか。社員は、いわばバンドのメンバーだ。

社員も、おそらく安定よりは興奮を求めている人が多いと思う。「やり方は特殊だが、いい商品を作っている」と。大手家電メーカー出身のエンジニアも多いが、それを求めていないと、採用面接に来ないと思うんだよなあ。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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