自民の参院選挙改革案は党利党略むきだしだ 定数6増は「合区」ではじかれた議員の救済策

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国民の批判も無視するような形で自民党が公選法改正案の成立を急ぐのは、周知期間も考慮すると2019年夏の参院選に適用するには、「今国会がタイムリミット」(参院自民幹)となるからだ。20日の会期末を前に、野党側の激しい抵抗でカジノ関連法案の衆院通過が遅れており、政府与党は同法案など重要法案を確実に成立させるため、7月中下旬まで約1カ月の会期の大幅延長も検討する構えだ。

このため、自民党は「公選法改正案も今国会で必ず成立させる」と強気だ。与党の公明党は「比例定数増は議論の余地がある」となお慎重姿勢を示すが、自民党側は「公明もあえて反対はしない」と与党連携への手ごたえを隠さない。

一方、野党側は「半数改選の参院選は、本来同じルールで実施すべきで、前回と次回で選挙制度を大幅に変更するのは大問題だ」(国民民主党)、「そもそも人口減の中での定数増は国民にも理解されない」(日本維新の会)などとそろって自民の対応を非難している。

ただ、共産党などが定数増による格差是正には理解を示していることもあり、野党も足並みをそろえての徹底抗戦に踏み切れる状況ではない。このため14日に提出された自民党の改正案は、早ければ会期延長決定後の来週後半にも参院で審議入りする可能性があり、大幅会期延長となれば成立の公算が大きいとの見方が広がる。

こうした状況の背景にあるのは、今国会で改正が実現しなければ来夏の参院選は現行制度のままでの実施となり、各地で1票の格差をめぐる「違憲訴訟」が相次ぐ可能性が大きいことだ。自民党はもともと、憲法改正の早期実現を念頭に、「合区解消」を改憲条項案に盛り込んだが、現状では来夏の参院選前の改憲実現は絶望的だ。だからこそ、暫定措置として今回の「6増」案を持ち出したわけだ。

総裁3選めぐる政局の「思わぬ落とし穴」にも

ただ、自民党内には「党利党略とみられかねない定数増のごり押しは、国民の反発を招き、かえって来年の参院選では自民党が不利になる」(閣僚経験者)と不安視する議員も少なくない。

さらに、安倍晋三首相の「3選」がかかる9月の自民党総裁選に向けて、国会閉幕後の国内政局は総裁選一色となる見通しだが、「そこで問われるのは、首相らの強引な政権運営の是非」(自民長老)ともされるだけに、「党利党略をむき出しにした参院選改革案は、安倍政権の強権体質の象徴として、党内の反安倍ムードを助長しかねない」(同)との側面もある。

首相サイドは「選挙制度は国会が決めることで、政府が口出しすべきことではない」(政府筋)とそろって静観の構えだ。しかし、依然決着が見通せない「もり・かけ」疑惑や、6.12米朝首脳会談を受けての日本人拉致問題の解決のための日朝首脳会談への交渉など、内外に難題を抱えながら総裁3選を目指す首相にとって、今回の参院定数増をめぐる党内外のあつれきが「政局運営の思わぬ落とし穴になりかねない」(閣僚経験者)との指摘も出ている。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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