米朝首脳会談「段階的な非核化」を巡る攻防 2人が会って最初の1分で答えは出る

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実際、5月24日に、トランプ大統領が「米朝首脳会談の中止」をいったん発表した際に問題になっていたのは、「即時」か「段階的」か、を巡る意見の食い違いだった。

北朝鮮は、核関連の物質などをすべて国外に搬出して核開発を放棄した「リビア方式」に対する強いアレルギーがある。リビアのカダフィ政権は、核開発を放棄したものの、結局、欧米が支援する反体制派に倒され、カダフィ氏が無残な最期をとげたからだ。北朝鮮は、「リビアの二の舞にはならない」ことを何度も表明してきた。

ところが、トランプ大統領の国家安全保障アドバイザーに就いたボルトン氏が4月末、北朝鮮へも「リビア方式」を適用する考えを表明したことから、北朝鮮は猛反発。トランプ大統領自らが5月17日、リビア方式を適用しない考えを示したものの、5月下旬にペンス副大統領が再び「リビア」に言及したことが、北朝鮮を再度刺激した。北朝鮮が、ペンス副大統領をののしる声明を出したことが、トランプ大統領を怒らせ、5月24日に「首脳会談の中止」発表に至った経緯があった。

北朝鮮は、最初に核開発をすべて放棄する「リビア方式」に強く反発してきただけに、米朝首脳会談をもとのスケジュール通り開く合意がなされた時点で、「即時非核化」ではなく、「段階的な非核化」に議論は移りつつあるとみてよいだろう。

実はトランプ大統領は5月24日に「首脳会談の中止」を発表する前の同日朝。米国で流れたインタビューで、「段階的な非核化」を容認する考えを示唆してもいた。

いっぽう、金正恩委員長も5月31日に、ロシアのラブロフ外相に会った際に、非核化は「段階的に」進める考えを示しており、両首脳の考えは一致しているともいえる。

あとは、12日の首脳会談で二人が会った際に、両者が具体的にどこまで合意できるかだろう。

トランプ政権に近い関係者は「米国は、平壌の側に変化を望む気持ちがどの程度あるのかを見極めようとしている」と語る。北朝鮮が段階的な非核化に応じれば、米国は、日本などと連携しながら、北朝鮮の経済発展を支援する考えだ。

トランプ大統領は9日、12日の金委員長との首脳会談について、「(非核化に向けて)彼らが真剣かどうかは、おそらく会って最初の1分で分かるだろう」とも語っている。

朝鮮戦争を「終結」させられるのか

トランプ大統領が最近何度も語っている通り、12日の首脳会談では、1953年から休戦状態が続く朝鮮戦争を「終結」させることがまず話し合われるだろう。「段階的な非核化」については、12日に両者がどこまで合意できるのかは、会談をおこなってみなければ分からない部分が多く、「非核化」がどこまで打ち出されるのかは不透明だ。

トランプ大統領は、金委員長と会い、自らの感触で一気に踏み込めると判断すれば、予想以上の成果を得られる可能性もある。その一方で、トランプ氏が実質的な合意ができないと即断すれば、会談でほとんど具体的な成果が得られないまま終わるおそれもある。

気性の激しい二人が対面したときに、何が起こるのか。世界の視線が注がれている。

尾形 聡彦 朝日新聞オピニオン編集部次長兼機動特派員

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おがた としひこ / Toshihiko Ogata

1993年朝日新聞入社。秋田、千葉支局を経て、経済部記者として財務省、鉄鋼業界、証券業界、流通業界などを担当。2000~2001年に米スタンフォード大学客員研究員。2002~2005年に米サンノゼ特派員としてシリコンバレーを取材した。2008~2009年にロンドン特派員として欧州経済、2009~2012年はワシントン特派員としてホワイトハウスや米財務省、米連邦準備制度理事会(FRB)を取材。日本の財務省・政策キャップ、経済部次長、国際報道部次長を経て、2015年から機動特派員として、米ホワイトハウスや日本政府を取材している。2016年からはオピニオン編集部次長を兼務する。7月下旬に、2つの米政権や大統領弾劾の行方を描いた『乱流のホワイトハウス トランプvs.オバマ』(岩波書店)を刊行した。ツイッターは@ToshihikoOgata

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