米朝首脳会談「何も学ばないアメリカ」の末路 歴史は作られるのではなく、作り直される

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こうした中、4月1日には、当時はCIA長官だったマイク・ポンペオ・現国務長官が北朝鮮を訪問。このとき、金委員長は、朝鮮半島の非核化を大まかな言葉で約束したものの、具体的にどのように進めるかについての詳細な議論は避けた。拘束されていた米国人3人の解放問題の話し合いに応じる姿勢は見せたが、最重要案件は平壌で米朝首脳会談を開くことだった。

一方、ポンペオ長官は米国での会談を提案。拘束されていた3人が解放された際の2度目の訪問を含めると、シンガポールを開催場所とすることに同意を得るまでに、ポンペオ長官と金委員長との会談は3回行われている。

非核化の交渉は手間取っている

ポンペオ長官が3人を連れて帰国すると、ホワイトハウスとCIAは祝賀ムードに包まれた。金委員長に揺さぶりをかけるためにトランプ大統領が会談中止の書簡を送るという束の間のドラマさえ、わずか1日続いただけだった。CIAの主な交渉相手である金英哲・副委員長が分厚い親書を携えて訪れ、会談についての取り決めを認めた。

だが、非核化の約束を明確化する共同声明についての交渉は手間取っている。米国務省からの専門交渉団の小グループは、米朝首脳会談後に本格的な交渉へと進める前の、大まかな指針となる声明について合意を得ようとしている。米国側は、北朝鮮の核やミサイル問題を検証することについて、合意書式で早めに意思表明を得ることを強く要求している。

一方、トランプ大統領は、金委員長と何度も会談を重ねることを含む「プロセス」という考え方を抱いている。シンガポールでの開催に妥協した金委員長にとって、最終目標は引き続き米国大統領を平壌に迎えることである。金委員長にとってこれは、金王朝の永続的支配下で、北朝鮮がついに本格的に核武装した強国として米国に受け入れられたことの証明になるからだ。

前述の通り、クリントン元大統領は2009年に北朝鮮を訪れ、人質を連れて帰国し、その後交渉のプロセスが続いた。そして2012年2月に、新たに政権についていた金委員長との間で、食料援助と6カ国協議復活を交換条件として、ミサイル実験とウラン濃縮を凍結し、国際査察団が北朝鮮の核施設に入ることを受け入れるという新たな合意に達した。しかし、その取り決めはたった何週間が続いただけで、北朝鮮政府は4月に人工衛星を打ち上げた。

シンガポール協定もこれと同じ運命をたどるのだろうか。トランプ大統領と側近たちは歴史を無視することに決め、今回はすべてが異なると自信をもっている。「北朝鮮は決して歴史を忘れていない。一方、米国側は何も学習しない」とストラウブ氏は話している。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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