「農家の直売所」が日本の農業を変える仕掛け 農業総合研究所トップにロングインタビュー
及川:当然、「ありがとう」という声も、「美味しかった」という声も聞こえてきません。そんな状況で、この仕事のどこに面白みを感じるべきなのか、わからなくなってしまいました。
もう1つは、農家という立場で日本の農業を変えていくのは、非常に骨が折れるということです。不可能ではないかもしれませんが、非常に時間がかかります。
そこで次に思い立ったのが、販売現場へと入る、ということです。今度は八百屋になって、八百屋の立場から農業を変えようと考えたわけです。
村上:面白いですね。上流のほうから1つずつ下へと流れていくわけですね。
及川:ところがですね、実際に販売側に立つと、今度は、少しでも利益を上げるために農家から買いたたきたいという気持ちに囚われてしまったのです。農家の時は、1円でも高く売りたいと思っていたのにですよ。両方の立場を体験しているのに、立場が変わると考え方が真逆になるというのがとても大きな気づきでした。この気づきを経て、農業のシステムは、生産と販売の両方をやったことがある人間じゃないとコーディネイトできないのではないか、と感じたのです。
流通は、水と油が交わるところです。ここの仕組みがよくならないと、農業は良くなっていかないんじゃないかと。そこで、10年前になけなしの現金50万円で作った会社が農業総合研究所です。
村上:生産者だけが得をするシステムであっても、販売者だけが得するシステムであっても、結局はどちらかに負担を強いるのでうまくいかないという気づきですね。そして、そういったシステムを作るには、流通という分野で起業するしかないと考えたということですね。
及川:そうです。ただ、自分は、「社長をやりたい」と思っていたわけではありません。最初は会社を作ろうとは思わず、ハローワークに行きました。でも、流通の仕事が出来る会社がJAと市場しかなかったんですね。ネットで検索してみても見つかりませんでした。
存在しないなら自分がやるしかない、と、そこでようやく起業にたどり着きました。
村上:なるほど。では、まず「流通業をやりたい」という思いがあり、実現の仕方が結果的に起業だったということなのですね。
作った人に「ありがとう」が直接届く仕組みを
村上:続いて、御社のビジネスモデルが構築されるまでの経緯について伺っていきます。たとえば、農業の流通モデルの課題の1つには、消費者が払う金額に対して、生産者の手取りが少ないことを、払う消費者自身が意識していないという問題もあります。いわゆる中抜きの問題ですが、ここに御社が、生産者たる農家と販売者たるスーパーを直接つなぐプラットフォームを持ち込んだことで、生産者が自分で値段を決められるようになり、生産者の手取りが増えていったわけですよね。このビジネスモデルをどうやって構築したのかについて、教えていただけますか?