「わらわし隊」の記録 早坂隆著
日中戦争のドキュメンタリー、といっても主人公は吉本興業所属の芸人たち。昭和13年から敗戦直前まで中国戦線の兵士たちを慰問するため朝日新聞主導のもとに結成された「わらわし隊」の実情が丹念にたどられる。「笑わし」と「荒鷲」を掛けて命名された慰問団は、前線間近な即席ステージで過酷な日程のもと、漫才、浪曲、落語、漫談などを演じて将卒、傷病兵を喜ばせた。大義名分は別にして、朝日、吉本としては営業推進の大目標が成功を収めたこともわかる。
陸軍軍属として参加した金語楼、アチャコ、エンタツ、ミスワカナらの言動を追いつつ、70年後の今、元兵士や関係者との対話、中国取材など、多層な記録の集成で最後まで大部を飽きさせない。兵士たちがいかに笑いに飢えていたか身につまされるが、著者の目は将卒、そして芸人たちに対しひたすら温かい。南京虐殺や従軍慰安婦なども、慰問団の取材をもとに否定的結論を出している。(純)
中央公論新社 2310円
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