21世紀の歴史 未来の人類から見た世界 ジャック・アタリ著/林昌宏訳~21世紀をスケール大きく斬新な手法と概念で予測

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21世紀の歴史 未来の人類から見た世界 ジャック・アタリ著/林昌宏訳~21世紀をスケール大きく斬新な手法と概念で予測

評者 学習院大学法学部教授 野中尚人

 本書は、扱う時代も、対象の地域も限りなく人類のすべてを覆うほどに広く、また将来予測の手法や概念も驚くほど斬新である。人類の誕生から、21世紀に至るまでの歴史を振り返り、そして、今後の100年間を大胆に予測する。

アフリカから始まった人類の動きは、中国とエジプト、メソポタミア、インドなどを縦横に行き来する。今や美しい歴史の町となったベルギーのブルージュが世界の最初の「中心都市」とされ、その後、ヴェネチアやロンドンなど、長い変遷をたどり、その中で市場のメカニズムが発展し拡大してきた歴史をダイナミックに描いている。才気煥発なフランスの知識人が、該博な知識にものを言わせて、さまざまな歴史の展開を、市場と民主主義の拡大という考え方を軸として、大きな物語へとまとめてくれた形である。

歴史の法則を見出すのが前半だとすると、後半は、それらを基にした未来の予測であり、独特の概念が次々と登場する。先端的な専門能力を持ち、国境を超えて活動するクリエーター階級とも呼ばれる「超ノマド」という人々、そのノマドたちが愛好するノマド・オブジェの氾濫、さらには、個人のプライバシーが消滅するような超監視体制や自己監視体制の登場。G・オーウェルの『1984年』の21世紀版というところだろうか。そして、こうして国家の機能が市場のメカニズムに代替された後には、超帝国が登場し、さらにはそれが破裂して超紛争が生じるというシナリオである。この超紛争に代わって、超民主主義という新たな仕組みと哲学で、グローバルな世界が統治されるようにならないといけない、と結ばれている。

日本については、総じて厳しい評価を下している。経済的な能力、海洋発展のポテンシャルを持つ一方で、閉鎖的な体質に決定的な問題を見ている。

本書に若干の問題があるとすれば、大胆な要約の行き過ぎということであろうか。例えば、アムステルダムが1620年から1788年まで世界の中心都市であったと見ているが、それは多分修正の必要がある。著者自身、次の中心がロンドンに移ったのは、3度にわたる英蘭戦争の結果、全海域における制海権をイギリスが握るようになったからだと指摘している(91ページ)。これは、18世紀の終わりに起こったのではなく、17世紀後半、1651年から74年にかけて起こったことである。

しかし本書は、実にスケールの大きな書である。リーマン破綻が示すような、21世紀の世界が抱える問題の核心を考えてみるうえで、さまざまなヒントを与えてくれるだろう。

Jacques Attali
経済学者・思想家・作家。1943年生まれのフランス人。仏国立行政学院(ENA)卒。81~90年ミッテラン政権で大統領特別補佐官。91~93年ヨーロッパ復興開発銀行の初代総裁。2007年サルコジ大統領の命による「アタリ政策委員会」にて戦略提言を行う。

作品社 2520円  347ページ

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