セクハラ問題、日本で「#MeToo」は広がるのか ロイター記者が6人の女声にインタビュー

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  5月24日、財務省の事務次官が女性記者に対するセクハラ問題で辞任したことをきっかけに、米国で始まった、被害を告発する#MeToo運動に、日本でも関心が高まっている。写真は都内で4月、 蓮舫参院議員(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 24日 ロイター] - 財務省の事務次官が女性記者に対するセクハラ問題で辞任したことをきっかけに、米国で始まった、被害を告発する#MeToo運動に、日本でも関心が高まっている。

日本で初めて職場のセクシャルハラスメントをめぐる裁判が提訴され、「セクハラ」という言葉が流行語大賞となった1989年から30年近くが経過。男女雇用機会均等法の中に事業主がセクハラに対処することが義務付けられたり、メディアの世界で女性記者の数が増えるなど、制度・現象面では変化もみられる。

だが、旧態依然とした意識が、とりわけ男性の側に残っていることが、今回の財務省スキャンダルで明らかになったとの声が多い。

男女平等を示す指数のランキング(世界経済フォーラム、2017年)で、日本は対象144カ国中114位。しかも毎年順位を落としている。社会の中で女性の地位がもっと向上しない限り、セクハラ根絶は難しいとの見方も強い。

今、社会は、女性は、変わろうとしているのか。#MeToo運動は今後日本でも広がりを見せるのか。ロイターは、政治家やニュースキャスター、研究者など6人の女性にインタビューし、それぞれの見解を聞いた。

◎安藤優子氏 ジャーナリスト、1991年に湾岸戦争を取材

「私がこの世界に入ったのは21歳、大学生だった。生まれて初めて政治家のところに取材に行けと言われた。理由は『政治家はお姉ちゃんが好きだから』。最初、政治家は相手にしてくれないが、そのうち、気安く話しかけてきたり、ボディタッチされたりというのは日常茶飯事」

「女性の意識はすごく変わってきている、変わろうとしている最中だと思う。みんな我慢してきたのだと思う。自分がカミングアウトすると、自分に対し誹謗中傷がくるから」

「これから日本で今まで記憶を閉じ込めていた人たちが、今回のことをきっかけに名乗り出てくる可能性はかなりあると思う。だって記憶は絶対消えないから」

「安倍政権の『女性が輝く社会』というのは、ジェンダーの視点はゼロ。あれは経済政策。意識を変えようとして導入しているのではなく、いかに女性に労働力として社会に戻って来てもらうかという政策。(この政策では)女性が頑張ってくれれば、(男女)平等にならなくてもいい」

◎野田聖子氏 総務相兼男女共同参画担当相、衆院議員

「セクシャルハラスメントについて、軽く考え過ぎている、特に男性は。これが命取りになることをしっかり学んで欲しい。セクハラは、この程度はやむを得ない、という女性の諦めと、これぐらいはいいんだ、という男性のおごりのなかで、ずっとスルーされてきたと思う。もうそれでは許されない時代だということが、明らかになってきた」

「法律で必要なのは、被害者の保護と救済。あいまいになってはいけないので、法律の手当てがいると思う。(日本は)成熟した国家として、今まで見過ごしていたシリアスな問題だけど、男性が地域や職場において軽く見ていたことを深く反省しようという、何かアピールをしなければいけない」

「選挙に落選中、夜の酒席で1票欲しければ胸を触らせろとか、そんなの日常的だった。これ(セクハラ対策)は、自分にとってもクリアしなければならない問題だと思っている。やられたことのない人に片づけられる問題ではない」

◎上野千鶴子氏 社会学者、認定NPO法人ウイメンズアクションネットワーク理事長

「セクハラは権力の濫用(らんよう)なので、管理職以上の地位にいる人がハイリスクグループであることが明らかになってきた。『まさかあの人が』とは言えない」

「職場における男女の権力の非対称性が解決しないと、セクハラの温床はなくならない。私たちがセクハラ事案にいちいち対応してきたのは、一種のモグラたたき。問題の温床がなくならない限り、まだいろいろなところで出てくるでしょう」

「ただ、今、社会的な空気がセクハラを許容しないという方向に変わってきたのは非常にいいこと。セクハラ訴訟件数が増えたし、勝訴率が上がっている。賠償金額が高額になってきた。そういうことから周りが学習していった。セクハラをすると損だと」

「ここまで、世論が許さないという雰囲気になってきたのは、私たちが積み重ねてきた努力の成果。それはもう隔世の感がある」

◎福島みずほ氏 参院議員、弁護士として長くセクハラ事案を担当

「今回の件は、怒りとショック。時代が30年前に戻ったという感じ。セクハラ(に対する認識)が一定程度浸透し、進展があったが、今回の女性の訴えを聞いて、これほどひどいセクハラが横行し、女性たちがこれだけひどい労働環境で仕事をしてきたということにショックと怒りを感じている」

「今回のことは、変える契機になるし、変わらなければならないと思う。今回なぜ、がんばるかと言えば、報道以降、女性記者たちが、国会議員がどれだけ自分たちを守ってくれるのだろうと固唾を飲んで見守っている感じがするからだ」

「被害に合った女性がインターネット上で、すさまじいバッシングにさらされているというのが問題。セクハラを訴える女性をおとしめている。訴えた人間が責められるという構造は、もう終わりにしないとだめだ」

◎蓮舫氏 参院議員、元民進党代表(訂正)

「今、国会でも、記者のかなりの割合が女性になった。数が増えるというのは力。ずいぶん変わってきていると思っていたが、女性の意識がどんなに変わっても、セクハラする側の意識が変わらなければ、その壁は乗り越えられない。それが今回露呈された」

「今回は、好機だと思っている。この好機を逃してはいけない」

「ハラスメントの相談を秘密保持の上で公正、公平にできる何らかの機関を設ける必要性は出てきている。今回のことを一過性で終わらせないためには、ハラスメントを感じた人が、声を出せる場所を整備していくことによって、MeToo、WeTooという運動が広がると思う」

◎伊藤詩織氏 フリージャーナリスト

昨年、男性のテレビ記者(当時)にレイプされたと公表したが男性は不起訴となった。現在、損害賠償を求め民事訴訟を起こしている。3月に日本で『#WeToo Japan』の立ち上げに参加。(インタビューは英語で行った)

男性記者はロイターの取材に対し「犯罪事実があったという彼女の告発に対して、私は犯罪事実はなかったと、実際なかったので、このように主張している」と述べ、検察の不起訴処分と、検察審査会の処分妥当の結論はすでに出ており、刑事事件としては最終的に彼女側の主張が退けられている、との認識を示した。

「レイプ被害を公表したことでバッシングにあい、売春婦とかハニートラップとか呼ばれた。政治的なプロパガンダのためにやっていると言った人もいた」

「1989年、セクハラが流行語大賞となった年に私は生まれた。それから30年、ようやく、ようやく、人々はわかり始めた。『そうか、これは人権に関することなんだ。人権に対する侵害なんだ』と」

*蓮舫氏の肩書きを「元民主党代表」から「元民進党代表」に訂正します。

(宮崎亜巳、竹中清、Linda Sieg 編集:田巻一彦)

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