ピンチ!がん治療の危機を招く「病理医」不足

病気の発見・診断・治療が遅れるリスクを生む

一方で、病理診断件数は増加している。

診療行為の状況を毎年6月に調査する厚生労働省の社会医療診療行為別統計によると、2011年に43万8533件だった病理診断の数は、5年後の2016年には53万948件と9万2千件以上も増えている。単純にこの数を12カ月分で計算すると、年間ベースで100万件以上も増えたことになる。

これは、抗がん剤の開発が非常に進んでいる中、抗がん剤の効き目があるのか否かを病理検査で確認する機会が増えていることが主な理由である。

このようにがん治療において、病理医が大きな役割を担うことが増えているが、がん専門の病理医数は十分とはいえない。

厚生労働省によると、2016年時点でがん診療連携拠点病院に指定されていた400施設うち、50施設で常勤の病理専門医が不在だったという。がん診療拠点病院はいわゆる「大病院」が多い。ところが、その「大病院」ですら病理医を抱えていないという心もとない状況なのである。

病理医不足は患者にも影響する

病理医が不在の病院は当然、自前で検査できないため、外部の検査センターに病理検体を送る。しかも、わざわざ日常業務以外の時間を割いて別の病院から駆けつけた病理医が診断しているというありさまである。

さらに、検査センターでの診断は歪んだ状況を生んでしまっている。

診断という医療行為は、医師法によって医療施設で行わなければならないと定められている。よって、検査センター経由の病理検査は法律上診断とみなされないが、病理医が不足している現状では、こうした実態を「暗黙の了解」として認めざるをえないのである。

患者にも影響を及ぼす。

検査センターで診断を下す病理医は、依頼主である医師と面識がない場合がほとんどである。こうなると、仮に病理医が診断する上で確認したいことがあっても、医師とうまくコミュニケーションを取れなくなる。

病理診断はかなり専門性が高いため、その内容を病理医と主治医の間で直接ディスカッションする必要が時にある。

筆者が勤める病院では、手術に向けた話し合いを総合外科と週2回行うほか、婦人科腫瘍・皮膚疾患・脳腫瘍・乳がん・肺がん・泌尿器腫瘍・血液疾患の担当医たちとも、治療に向けた話し合いの場を月1回のペースで設けている。

だが、病理医が不在だと、患者の主治医と病理医がさまざまな症例を討議する場すら作れない。

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