リトラクタブルヘッドライトが消滅したワケ

流麗なスタイリングを演出した機構の弱点

とはいえ、ことにスポーツカーにおいては、車体の先端部が低く尖ったデザインであることにより、スピード感を印象付けることになるので、上記のようなヘッドライトの位置より低い先端部を持たせたいという思いにデザイナーがなるのは自然なことだ。

そこで、普段は車体先端を低く見せながら、夜間に照明が必要な時にはヘッドライトを規定位置に設置し、機能を果たさせようとリトラクタブルヘッドライトの活用が日の目を見ることになった。また、鋭く尖った車体前部からヘッドライトが現れる動きは印象深く、ほかと違う特別なクルマという満足も覚えさせる。

格好いいと、素直に感動を与えるリトラクタブルヘッドライトの仕組みは、憧れを生み、やがて乗用車でもデザインを優先する車種で採用されるようになっていった。

一方で、ポルシェのように、車体先端部を低く抑えながら、ヘッドライトをあえて独立した高い位置に設け、それをデザインとして成立させることで、独自性を表現した例もある。

1990年代に入ると、ディスチャージヘッドランプとか、キセノンヘッドランプ、HID(ハイインテンシティ・ディスチャージ)などと呼ばれるヘッドランプが登場する。これは、電球内の放電を利用して照明とする仕組みで、明るく、ヘッドランプ自体を小さく作ることができる。

小さくても、保安基準に適合する十分な明かりを実現できることから、車体先端を自由にデザインしながらうまく造形にとけこませる配置ができるようになってきた。こうなると独自性も表現でき、必ずしもリトラクタブルヘッドライトでなくても、機能性に優れながら独創的で格好よく、かつ新鮮なカーデザインができるようになった。

リトラクタブルヘッドライトの弱点

というのも、リトラクタブルヘッドライトには、弱点もあったからだ。

たとえば日中でも、トンネルや地下駐車場など暗い場所ではヘッドライトをその都度上げ下げしなければならない。ヘッドライトの装置一式は案外重いもので、これを毎回、しかも日中でもトンネルや地下駐車場など通るたびに上げ下げするとなれば作動頻度も多くなり、故障の原因につながる。かつて、年式の古くなったリトラクタブルヘッドライト採用車種で、片方のヘッドライトしか上がらないといった姿を見かけたものだ。

また、せっかくのスポーツカーでありながら、ヘッドライト使用時には空気抵抗が増えてしまうことにもなる。空気抵抗低減には、空気が最初にぶつかる部分が丸みを帯びているほうがよく、一方、ヘッドライトの先端部はカバーレンズが丸みを持っているとはいえ、全体的には壁のように立ち上がった形となるため、空気抵抗を増やすことになる。空気抵抗が少ないはずのスポーツカーに、リトラクタブルヘッドライトは点灯時に悪影響を及ぼすことになる。

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