リトラクタブルヘッドライトが消滅したワケ 流麗なスタイリングを演出した機構の弱点

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

道路交通の法規において、北欧やカナダなど高緯度の国々では日中もヘッドライトを点灯しなければならないところがある。高緯度の地域では、日照が少なく暗いということもあるが、自車の存在を相手に知らせる被視認性を高めることで、事故を予防する安全にもつながる。

安全面ではさらに、万一歩行者などとの接触があった際、リトラクタブルヘッドライトの出っ張りが負傷の度合いを高めてしまいかねない懸念も出る。

そうした社会のいろいろな要求からも、リトラクタブルヘッドライトであることの意味が薄れる傾向になった。

被視認性の点では、デイタイムランニングライトが2011年ごろから登場した。これは、前方を照らすヘッドライトとは別に、イグニッションを入れると必ず点灯し、自車の存在を相手に知らせるのが目的のライトだ。それを逆手にとって、デイタイムランニングライトの配置の仕方を工夫することにより、どの自動車メーカーであるかというブランドを遠めにも知らせる意図が加わるようになった。

このデイタイムランニングライトのデザイン1つをとっても、機能的にしか利用していないメーカーもあれば、見栄えを強く意識したメーカーもある。ブランド力の強化を積極的に進める自動車メーカーは、デイタイムランニングライトのデザインに力を注いでいる。

ライト自体の機能の多様化も進んでいる

デイタイムランニングライトに加え、ライト自体の機能の多様化も進んでいる。

たとえば、交差点の角を曲がる際にヘッドライトだけでは盲点となる暗い部分へ照明をあてるコーナリングライトという機能がある。それをさらに拡張して、ハンドル操作に合わせてヘッドライトの照射向きを変えるアクティブ・フロントライティング・システムもある。これらの機能をヘッドライトに追加すると装置そのものが大きくなる。

あるいは、ハイビームアシストといって、より遠くを明るくするハイビームを常用しながら、前を走るクルマや対向車への眩しさを抑えるため、その部分のみ配光せず暗くする技術が普及しはじめている。

ランプとしての省電力化を含め、これら機能にはLEDランプが使われることが多く、LED自体は明かりに熱を帯びなくても、素子が発熱するので冷却用のヒートシンクをランプ内に設ける必要があり、装置が大きくなったり重くなったりする。

それらの付加価値を備えたヘッドライトをリトラクタブルタイプにするのは大変だ。こうしたライト技術の変化や、求められる機能の多様化などにより、リトラクタブルヘッドライトの需要はなくなってしまったのである。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
自動車最前線の人気記事