金正恩は錯綜する米国の動きに戸惑っている

1カ月に2度の中国訪問が意味すること

加えて、北朝鮮は核とミサイルの実験を中止したほか、非核化交渉に応じる意向を示しており、中国が北朝鮮に対して行ってきた要求のうち、いくつかはすでに実現している。

ここから読みとれるのは、北朝鮮が米朝首脳会談後を見据えて、中国との関係強化に動いているということだ。米朝首脳会談が成功する保証はどこにもない。米ワシントンから聞こえてくるメッセージは錯綜している。トランプ大統領は、あるときは金委員長を「たいへん立派な人物だ」と持ち上げたかと思えば、別の日には米朝首脳会談はまったく行われないかもしれないとほのめかしたりしている。

北朝鮮を従わせられるのは中国だと見せつけた

1回目の中朝会談が行われた当日、国家安全保障問題担当の大統領補佐官に就任が決まっていたジョン・ボルトン氏は、北朝鮮は米朝首脳会談を提案することで時間稼ぎをしていると批判。「つべこべいわずに」非核化に取りかかれ、と迫った。最近、国務長官就任が承認されたばかりのポンペオ氏も、北朝鮮の「即時」非核化を目指すとしており、中途半端な取引はしないと語っている。

米朝首脳会談が必ずしも成功裏に終わるとは限らない、そんな不安を呼び起こさせる言葉遣いである。仮に米朝会談が失敗した場合、米国政府は「最大限の圧力」をかけ続けるという現在の方針を一段と強めてくるだろう。そうなった場合に何よりも重要になるのが、中国の後ろ盾なのだ。つまり、米国政府の混乱したメッセージが、金委員長をまたもや習主席のもとに向かわせた可能性が高い。

中国メディアによれば、金委員長は2回目の中朝会談で段階的な非核化の意向を示したとされる。が、米国は段階的なステップ・バイ・ステップの非核化など望んでいない。米国が欲しているのは「オール・オア・ナッシング」、やるかやらないかの二択であり、北朝鮮政府は米国との会談がこじれた場合に備え、次の作戦を練り、保険をかけておく必要がある。

そうしたバックアップ作戦として、北朝鮮は中国との旧交を温めることにしたのだ。米朝首脳会談が好ましくない結果に終わり、米国が対北制裁を強化したいと考えた場合に備え、米国が中国からの協力を本当に得られるのかどうか不安になるような状況をつくり出しておくためである。中朝関係が昨年のような緊張状態に後戻りすることはありえない――そんな蜜月関係を、金委員長は2度目となる習主席との会談を通じて示そうとした。

一方の中国政府には、北朝鮮問題において中国が引き続きカギを握っていることを示す目的があったとみられる。中国政府にとっては、歴史的な南北首脳会談の後に2回目の中朝首脳会談を持つことで、東アジアにおける中国の影響力を世界に見せつけることが可能となる。つまり、北朝鮮政府を従わせられる力を持っているのは今も中国なのだ、という現実を知らしめようとしたのだ。

(文:フィヨドール・テルティツキー)

筆者のフィヨドール・テルティツキー氏は北朝鮮ニュース有料版のニュースアナリスト。韓国ソウル大学で社会学博士号。
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