『遠距離介護』が働き盛りを襲う! 仕事との両立に悩む人が急増

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介護セミナーでは男性の姿が目立つ

離れて暮らす親のケアを考えるNPO法人パオッコ理事長、太田差惠子さんは「特に男性が、ものすごく困り始めている」と現状を語る。現在の30代、40代は女性も外で働いている世代。妻に仕事を辞めて、自分の親の介護をやってくれとは言いづらい。しかもお互い一人っ子ということになれば、妻には妻の親の介護がある--。日本の家族の形が変わる中で、男性の介護責任が増しつつあるのだ。

事実、NPO法人パオッコで1996年から開催している介護セミナーでは、圧倒的に多かった女性参加者に加え、ここ数年は、男性の姿が目立つようになった。

介護が必要な親を地元に残し、都会で働く人が抱きがちなのが「親を見捨てている」という罪悪感。「呼び寄せて同居したほうがいいのかもしれない……」。そう考える人は多いという。だが、「必ずしも同居して介護することが最善の策だというわけではない」(太田さん)。

たとえば同居の場合、外出中の昼間だけ介護保険でホームヘルパーを頼もうと思っても、東京のほとんどの自治体では、食事の用意や掃除など家事の援助は受けることができない。また、入居待ち状態の特別養護老人ホームは、家族と同居している人より一人暮らしのほうが入居の優先順位が高くなる。

遠方に暮らす親を自分の生活圏内に呼び寄せて同居したとしても、親にとってはまったく見知らぬ土地。見慣れた風景、長年親しんできた友人、知人と離れてまで子ども家族と同居することが親にとって幸せかどうか、じっくり見極める必要がある。「親と子、それぞれが自分の人生を大事にすることも大切なこと。離れて暮らしているからこそお互いを大事に思えることもある」(太田さん)。

介護と仕事を両立するには?

とはいえ、遠距離介護の場合、病院からの緊急の呼び出しにどう対応するかなど問題は山積みだ。仕事と介護を両立するには、いったいどうすればいいのか。

ポイントになるのは、何より「いいケアマネジャーに出会うこと」だ。

介護保険を利用する場合、必ず担当の「ケアマネジャー」がつく。まずは介護に関する各種相談窓口である「地域包括支援センター」に相談する。ここで、訪問・看護・通所介護、福祉用具貸与など、どのような介護保険サービスがあるかを把握し、親やケアマネジャーと相談しながら「ケアプラン」を作成することが、スタートラインになる。前出の外村さんは「相談できるケアマネジャーに出会えたことで、抱えていた不安が解消された」と話す。

遠距離介護では、決められた日程の中で効率的に動けるよう、事前にスケジュールを組み立てておくことも大切だ。

外村さんが帰省時のスケジュールに必ず組み込むのが、両親の担当ケアマネジャーとの面会日。帰省時にその場で親の暮らしぶりを聞き、今後のケアプランを相談する。

帰省時だけではない。親の担当ケアマネジャーとはメールで連絡を取り合っている。また離れていても両親、弟、姉との密なコミュニケーションを欠かさない。長男の外村さんには、大阪で暮らす弟と東京で暮らす姉がいるが、姉、弟、外村さんの3人で時期をずらし2~3カ月に1度、2泊3日の日程で帰省するなど、一人で介護を抱え込まないようにしている。

いわば、ケアマネジャーと兄弟姉妹でチームを結成して、介護に当たっているのだ。

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