ソフトバンク、米通信「経営権」手放した理由 孫正義氏は「携帯事業」への興味を失ったのか

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典型的なストックビジネスである携帯事業では、設備投資費用の回収のあてになる契約者の顧客基盤が極めて重要だ。また、今回の合併では年間60億ドル(約6500億円)以上のコスト削減効果も見込むという。新会社は合併後3年間で5Gへの移行に400億ドル(約4.3兆円)を投じる計画だが、単独よりも迅速に整備することが可能になる。

ボーダレス化が進む5G時代の戦い方という面でも、2強に対抗するだけの投資余力が生まれる意味は大きい。ベライゾンは2017年に米ヤフーを買収済みで、AT&Tは米メディア大手・タイムワーナーの買収手続きの途上。こうした動きは5G時代での競争力を強化する意味もあるとみられる。

米携帯電話首位のベライゾン・コミュニケーションズや同2位のAT&Tは異業種の買収に積極的だ(編集部撮影)

通信速度が今の100倍になり、同時多接続や低遅延が実現すれば、通信を基軸にしたサービスが一気に広がりそうだ。その中でも、携帯で楽しむ動画配信などのコンテンツビジネスの潜在可能性は大きく、通信事業との相関性も高い。さらに、あらゆるモノがネットにつながるIoT時代には、通信以外でカギとなる事業や領域が出てくることも考えられる。今回の合併は、こうした分野に投資する余力を生み出せる。

「投資会社ソフトバンク」にはプラス

ソフトバンクGに関しては、今回の合併によってどういった影響が考えられるか。国内通信業界を担当するアナリストは、「合併はソフトバンクGの信用評価上ポジティブで、投資会社としてもプラスになる」と見る。合併により新会社の企業価値が高まれば、そこに投資しているソフトバンクGの信用力も高まるわけだ。

その結果、「投資持ち株会社としての性格を強めているソフトバンクGの財務流動性が高くなる」(前出のアナリスト)。つまり投資先としてのスプリントの価値が高まれば、ソフトバンクGが他社への投資で損失を出すなどした際の穴埋めとしての信頼性も高まるため、ソフトバンクGが積極的に投資できる余地も広がる。

合併には米規制当局の承認が必要だが、2019年半ばまでの実現を目指すという。その頃には、ソフトバンクGが今年度中に予定している国内携帯事業会社の上場も実現している可能性が高い。業界関係者からは「孫社長は携帯事業に興味がなくなったのでは」との見方も出ている。ソフトバンクGが一層身軽になり投資に集中する環境が整う中で、今後どんな手を打ってくるのだろうか。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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