「働く留学生」がこのまちを支えている 「留学生アルバイト事情」最前線をいく

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留学生アルバイトを受け入れる側の姿勢の重要性は、実際に彼らを積極的に採用している企業の側からも聞くことができた。

中国出身の金美香(きんみか)さんは、「はなの舞」などの居酒屋を全国展開するチムニー株式会社に2011年に入社。2018年2月、外国人の正社員やアルバイトを積極的に活用するために新設された、グローバル人財開発部の課長に任命された。金さん自身も、2004年に留学生として来日し、焼鳥屋などでのアルバイト経験もある。今は外国人の正社員を20人(現在は1000人中10人)、アルバイトを1000人(現在は9000人中600人)に増やすことを目標に、奔走している。

金さんはある日、現場のスタッフから、留学生との働き方の「コツ」を教えてほしいと言われたことがあるという。「コツなんてありません。愛情を持って育てようと思うかどうかが大事です。アルバイトをしている本人が『何で怒られているかわからない』と常にドキドキしている状態では、すぐに辞めてしまいます。『仕事が楽しい』と思うように育てることが大切です。そうすれば、自分の友だちを紹介してくれたり、さらに人が増えていきます」

チムニーでもやはり、「2年前くらい」から、日本人を採用するハードルが高くなっている状態が続いているそうだ。事業の構造上、アルバイトを雇えなければ新店を出すこと自体が難しい。小規模の店舗でも、ホールとキッチンを合わせて、毎晩6人はアルバイトが必要になる。新しく採用した留学生アルバイトは、各エリアにある「教育母店」で2週間から1カ月ほどトレーニングを受け、その後、各店舗に配属される仕組みを構築した。留学生のメインの採用経路は日本語学校と専門学校で、特にベトナムは、現地で日本語学校を経営する「仲介業者」の存在が大きいという。その業者が留学生に対して、ビザの手配から、日本での学校や住まい、働き口などまで手配する。そのため、4月を中心に新しい留学生をまとめて採用することができるのだそうだ。また現在、来日しているベトナム人留学生には、2、3年前に来日した世代が呼び込んだ兄弟や友だちも多くいるという。

課題は、卒業後の就労ビザの問題

アルバイトが増えれば、「卒業後は正社員に」という流れも当然増えてくる。しかし金さんは、「それには課題が大きくて。就労ビザの問題です」と答えた。取材時の4月時点で、留学生アルバイトを経て、正社員の採用内定を出していた20名のうち、まだ3名しかビザが下りていない状況だという。「入管にビザが下りなかった方の再申請をしているのですが、入管はパンク状態で審査が長引いています。品川の入管に向かうバス停の前にも、長い列ができていました。一生に1度しかない入社式に出られないのは、かわいそうですよね」

正社員として内定した方が申請しているのは専門的・技術的分野での就労ビザだ。留学ビザと異なり、いわゆる「単純労働」で働くことはできない。飲食店の接客業務は、この「単純労働」に当たるとされているため、アルバイト時代と同様の接客業務をすることはできない。従って、彼らは何らかのデスクワーク型の「専門的業務」に携わる旨を申請した上で、入管から承認を得る必要があるのだ。

金さんによると、3月に学校を卒業した留学生たちは、7月までは留学ビザが有効だという。しかしその間、週28時間までのアルバイトは認められておらず、就労ビザが下りるまでは収入を得る道が閉ざされてしまうそうだ。今後、留学から就労へのビザ切り替えが増えていくことを考えると、「留学ビザが有効な間は、アルバイトでの就労を認める」といった見直しの検討も必要かもしれない。

今回おふたりの話をうかがい、改めて感じたのは、深刻な人手不足の中で、「働く留学生」を「自分たちにとって都合のいい存在であってほしい」と安易に考えがちな日本企業側の傾向と、実際に彼らをアルバイトとして採用する上で直面する「それではうまくいかない」「ならばどうやったらうまくいくか」というリアルな学びの現状だ。

加藤さんと金さんは、それぞれ自らが得た学びを、周囲の企業やスタッフに広めようと腐心しているように感じられた。「日本人が採用できないから、外国人でも採用するしかない」という企業レベルの発想。そして「単純労働は留学生などに例外的に認めるが、就労ビザでは単純労働は認めない」という国家レベルの発想。両者は違うことを言っているようで、どこか同じまなざしや論理を共有しているように思える。

「違うけれど同じ人たち」と共生していくためには、謙虚さとリスペクトを持って、私たち自身のまなざしをみつめ直していく必要がありそうだ。当然ながら、文化も制度も自分たちの意思でつくり直せるし、いつだってつくり直していい。そのことを、忘れないようにしよう。

望月 優大 ライター・編集者

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もちづき ひろき / Hiroki Mochizuki

1985年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。株式会社コモンセンス代表取締役。日本の移民文化・移民事情を伝えるウェブマガジン「ニッポン複雑紀行」編集長。経済産業省、Google、スマートニュースなどを経たのち独立。関心領域は社会問題、社会政策、政治文化、民主主義など。趣味は旅、カレー、ヒップホップ。

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