岩盤浴より「入浴」の方が健康効果は高かった 普通の人に「デトックス」は無意味だ

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便が腸の壁にずっとへばりついていられない最大の原因は、腸の壁の細胞が頻繁に生まれ変わることです。壁の細胞はだいたい3~4日ではがれ落ち、1週間もしないうちに壁全体の細胞が入れ替わるとされています。壁に何かが張りついていても、このとき一緒にはがれます。何キロもの便が何カ月も腸にとどまることは考えられません。

「毒出し健康法」という発想のヒントになったのは、病院で行われている「医療用デトックス」でしょうか。これは、薬物を過剰に摂取した患者さんの体から毒を取り除くための 治療法で、大量のぬるま湯で胃を洗う、機械を使って血液透析するなど、さまざまな方法があります。

健康な人がわざわざ毒出ししなくていい

いずれも命を救うための非常手段であり、健康な人がわざわざ毒出しを心掛ける必要はありません。なぜなら、誰の体にも、有害な物質を強力に消し去る仕組みが備わっているからです。それは右の脇腹にある肝臓で、かたときも休むことなく、黙々と毒素を分解してくれています。

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また、おなかの左右にある腎臓は不要になった成分を尿に捨てています。体には体内の物質の濃度を一定に保つ働きがあり、本来は必要な物質であっても、濃度が高くなりすぎると排泄するようになっています。つまり、一生懸命汗をかこうとするより、腎臓を含めて体全体が本来の機能を十分に果たせるようにするほうが、よほどデトックスに役立つわけです。

英国の国民保険サービス(NHS)は、日本の厚生労働省にあたる英国保健省が主導する国営の医療保障制度です。このNHSのウェブサイトにこう書いてあります。

「デトックスには何の根拠もなく、いい結果が得られるという保証もありません。(中略) 健康を守る唯一の方法は、節度をもって食べ、定期的に運動することです。夢の特効薬は存在しません」

新鮮な野菜を食べる、きれいな水を飲む、お風呂で汗を流す、ぐっすり眠る、映画を観て思い切り泣く。よい生活習慣は心と体にもとから備わった力を引き出します。精巧で、とてつもない機能を持つ私たちの体に「健康法」は無用です。

奥田 昌子 内科医

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おくだ まさこ / Masako Okuda

愛知県出身。京都大学大学院医学研究科修了。博士課程にて基礎研究に従事。生命とは何か、健康とは何かを考えるなかで予防医学の理念にひかれ、健診ならびに人間ドック実施機関で30万人以上の診察にあたる。現在は産業医を兼務し、ストレス対応を含む総合診療を続けている。著書に『欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』『日本人の「遺伝子」からみた病気になりにくい体質のつくりかた』(講談社ブルーバックス)、『内臓脂肪を最速で落とす』(幻冬舎新書)、『日本人の病気と食の歴史』(ベスト新書)、『なぜ、健康法は「効かない」のか?』(だいわ文庫)などがある。

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