「妊娠は順番制」女性保育士たちの厳しい現実 「今妊娠されると困る」と通告する園長

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妊娠初期は悪阻がひどかったが、園長の“お達し”に反してフライングしたため、体調が悪くても休めなかった。園長に知られることを恐れて周囲にも妊娠したことを明かせずにいたため、妊娠中に特有な眠気に襲われると、同僚からも保護者からも「やる気がない」と思われ、精神的にも辛かった。あまりにお腹が張って、出血を伴うと安静にしなければならなかったが、それも言い出せずに、「インフルエンザにかかった」と嘘をついて休んだ。保育所の場合、園児も特定の感染症は一定期間休まなければならない決まりがあり、それは保育士も同じであるため、インフルエンザと言えば休むことができるという苦肉の策だった。

秋口から年末にかけて職場では来年度の担当クラスの希望や退職意向などの調査が行われる。厚着して大きくなっていくお腹を隠していたが、そこでようやく「本当にすみません。実は妊娠したので、来年度は産休に入らせてください」と謝り、妊娠について告げることができた。結婚して間もない他の保育士たちは、裕子さんの例を見ながら、年長クラスを希望せず、担任をもたない「フリー保育士」を第一希望にした。事実上、フリー保育士になった者から次の妊娠の順番が回ってくる格好だ。

妊娠中に休むと罰金を取る保育園も

このような妊娠待機ともいえる状況について、筆者は過去にも問題を指摘している。著書『ルポ 保育崩壊』(岩波新書、2015年)では、関西地方の社会福祉法人が運営する認可保育所で働く30代の保育士が、結婚を目前とする時に園長から「仕事に生きろ」と暗に妊娠をしないよう忠告されていたことを記した。また、同書では大手の社会福祉法人が運営する認可保育所で働く保育士(20代)が妊娠して悪阻がひどく休むと、罰金として1日1万円分が給与から天引きされていたというマタハラの例も執筆している。

こうした「妊娠の順番」は、人手不足の業界で女性の占める割合が高い職種で起こりやすく、保育士の場合も今に始まったことではない。保育士の平均勤続年数は以前から7年前後と短く、多くが結婚や妊娠を機に辞めていく。人手不足のなかで若いうちに入れ替わることが常態化しているため、妊娠が運営上の「リスク」に変容してしまう。それに加えて待機児童対策のため保育所が急速に増えるなかで空前の保育士不足に陥り、産休や育休で一人でも抜けてしまうと現場が回らないという問題が起こっている。だからこそ、「妊娠の順番」問題が表面化したのではないか。

不況が訪れるたび、共働き世帯は増えて保育の需要は高まった。1997年には専業主婦世帯と共働き世帯は完全に逆転、現在、共働き世帯は専業主婦世帯の1.6倍だ。しかし、国は待機児童対策に真剣に向き合わず、1998年に「定員の弾力化」を始めた。一定数、定員を超えて預かることができるよう規制緩和することで対処。その弾力化の幅は次第に拡大した。財政を投入して定員を拡大するのではなく、今いる保育士でより多くの子どもをみることになり、現場は悲鳴をあげた。

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