「妊娠は順番制」女性保育士たちの厳しい現実 「今妊娠されると困る」と通告する園長
「フライングしてしまい、お腹が大きくなるのを必死に隠していました」
都内で保育士として働く松野裕子さん(仮名、30代後半)は、自身が受けた“妊娠の順番“について語り始めた。
裕子さんの勤務先は社会福祉法人が運営する認可保育所だが、年収は300万円を超える程度の低賃金で、サービス残業が多いことから保育士がすぐに辞めてしまう。新卒採用で補充されることが多く、しかも若手ばかり。裕子さんは中途採用で入った数少ない30代だった。
周囲に次々と保育所ができるため保育士確保が困難になっていくと、園長は離職防止に必死になった。この2~3年で採用された保育士が次々に結婚し始めると、園長に焦りが見え始めた。産前産後休業、育児休業に入る保育士の代替職員が見つからず、欠員状態が続いてしまう。なんとか保育士が見つかっても、パートタイムで担任は任せられない。
そうしたなかで、結婚ラッシュを迎えた。20人近くいる保育士のうち裕子さんを含め5人が示し合わせたように同時期に結婚した。そうしないと、婚期を逃す雰囲気があった。保育園側は、「育休取得率100%」「子育てと両立しながら働ける」をウリにしているため、産休・育休にNOとは言えないが、すでに育児休業に入っている保育士が二人もいる。育休から復帰している先輩保育士もいるが、育児短時間勤務をしているため、早番や遅番のシフトから外れている。独身の保育士や子どものいない保育士の負担が重くなっていた。
「妊娠するタイミングを考えて」
結婚した5人のなかでは「先輩から妊娠する」という暗黙の了解があったが、先に一番の若手が妊娠した。すると、裕子さんに対し園長は「妊娠するタイミングを考えて。人手が足りないから今、妊娠されたら困る」とクギを刺した。しかし、後輩の保育士は悪阻(つわり)がひどく、切迫流産(流産しかかる状態)にもなって医師から絶対安静を言い渡され、何カ月もの間、出勤できない状態に陥った。代わりの職員確保がままならず、園長は裕子さんに「あなたは年長クラスの担任なのだから、卒園するまで責任がある。就学前は特に大事なのだから、タイミングはよく考えて」ときつく忠告した。