伊藤忠が「ファミマ子会社化」を決断した理由 追加投資額1200億円は決して安くない

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ただ、伊藤忠の鈴木社長は「(小売りを取り巻く環境は)動きが早くなっている」と、危機感をあらわにする。今回、伊藤忠は子会社化へと舵を切った理由をいくつか説明する。

子会社化を決断した3つの理由

1点目はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)の活用による次世代の店舗の構築。2017年6月に伊藤忠とファミリーマートはLINEと提携し、テクノロジーを活用した次世代コンビニの開発に着手した。今回の子会社化によってこうした取り組みを一層加速する構えだ。

苦戦が続くユニー・ファミマHDの総合スーパーは、ドンキホーテHDとの提携で改善を進める(記者撮影)

2点目は金融事業や、顧客基盤を生かしたデータ分析などのデジタル戦略の強化だ。伊藤忠とユニー・ファミリーマートHDは、電子マネーなど金融周辺のプラットフォームを共同で構築する方針を示している。2017年9月に共同出資会社を立ち上げており、2018年中に具体策を発表する予定だ。伊藤忠の鈴木社長は「場合によっては、外部のネット関連企業との連携も視野に入れたい」と話す。

3点目は海外事業の強化だ。ファミリーマートはすでに中国を中心に海外で店舗を展開しているが、子会社化を機に伊藤忠が持つ拠点や人材を生かして海外事業をよりスピーディーに進める狙いだ。

ユニー・ファミリーマートHDが誕生した2016年9月時点で伊藤忠の出資比率は33.4%だったが、その後も追加取得を進めてきた。特に今年2月初旬以降は小刻みに市場での買い増しを続け、出資比率は41.5%にまで達していた。今回のTOBで一気に子会社化に踏み切った格好だ。ただ、TOB発表前のユニー・ファミリーマートHDの1株価は上場来最高値圏。そこから1割近いプレミアムを乗せた買収価格は、決して安くない。

今回の伊藤忠による子会社化は、ここ数年でコンビニを巡る環境が大きく変わっていることを物語っている。伊藤忠の鈴木社長は「BtoCの顧客接点を持っているユニー・ファミリーマートは大事なアセット(資産)。当社に大きな影響を与える。そういう意味での定量効果は大きい」と話したが、はたして投資に見合ったリターンを得られるか。

常盤 有未 東洋経済 記者

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ときわ ゆうみ / Yuumi Tokiwa

これまでに自動車タイヤ・部品、トラック、輸入車、楽器、スポーツ・アウトドア、コンビニ、外食、通販、美容家電業界を担当。

現在は『週刊東洋経済』編集部で特集の企画・編集を担当するとともに教育業界などを取材。週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学』編集長。趣味はサッカー、ラーメン研究。休日はダンスフィットネス、フットサルにいそしむ。

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