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藤井聡太が将棋界にもたらした「史上空前」 コンピュータが名人に勝つ時代に起きたこと

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  • 松本 博文 将棋中継記者、ルポライター
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そして、電王戦の舞台に立つもう1人は――。いや、「1人」という呼び方は適当ではない。もう一方は、「人」ではない。当代最強の、コンピュータ将棋ソフト「PONANZA(ポナンザ)」だ。

佐藤天彦が名人として頂点に立つ人間界の競争は、日々、熾烈を極めている。一方のコンピュータ将棋界もまた、異次元のレベルで競争が続けられている。その中にあって、山本一成らが開発したポナンザは、つねに一頭地を抜いた存在として君臨してきた。

ポナンザはそれまで、電王戦で通算、5局を指している。成績は、5戦負けなし。開発者の山本自身が「おぞましい」という表現を使うほどに、人間の側からすればまがまがしさ、凶悪ささえも感じられる無敵の強さを誇るようになった。

電王戦に登場するコンピュータ将棋ソフトの代表もまた、「将棋電王トーナメント」という名の大会によって、フェアに決められる。そしてポナンザは、2016年の第4回大会も前評判どおり順当に優勝し、2017年の電王戦出場を決めた。

勝負という観点では、電王戦の場において、すでに人間の劣勢は明らかになっていた。2012年から2016年まで、棋士の通算成績は、5勝12敗1分。2013年の第2回から2015年の「FINAL」まで団体戦という形式を取っていたことなどもあって、一見、人間とコンピュータは好勝負を演じていたようにも見えた。しかしトップクラスのソフトの真の実力に焦点を絞ってみれば、実質的には、早い段階でコンピュータは人間を超えていた。

1対1の形式に移行した2016年の第1期では、ポナンザが山崎隆之叡王(八段)に2連勝で完勝。そして電王戦の主催者のドワンゴと日本将棋連盟は、2017年の第2期をもって電王戦を終えると発表した。その大トリを務める人間の代表が、佐藤天彦名人だった。

AIの発達による不安

AIがこれ以上発達したら、われわれの世界はどうなるのか。自分たちの職が奪われてしまう。人間がAIに支配されてしまう。そんな不安がしばしば語られる。

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将棋の世界でも、同様の危惧は早くから聞かれた。

「コンピュータがプロ棋士を負かす日は? 来るとしたらいつ?」

1996年に発行された『将棋年鑑』のアンケートで、ある若手棋士が、こう記している。

「そういうことになったらプロは要らなくなるので来ないよう祈るしかない」

その祈りにもかかわらず、「そういうこと」になった今、はたしてプロは「要らなく」なったのか。その答えは、佐藤天彦、羽生善治、藤井聡太らが、社会でどのような評価をされているかを考えれば、おのずと見えてきそうだ。

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