藤井聡太が将棋界にもたらした「史上空前」 コンピュータが名人に勝つ時代に起きたこと

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強い将棋ソフトを作るのもまた、人間である。その競技会では、史上最強と言われるソフトの開発者とともに、そのソフトになお挑もうとする開発者たちの姿が、改めてクローズアップされた。

一方で新たな時代を迎えた将棋界に、正統な王者の系譜に連なると目される若者が登場した。それが藤井聡太である。史上最年少の14歳2カ月で四段となり、デビュー以来無敗で29連勝という史上最高記録を達成。2018年2月には、順位戦昇級で五段、朝日杯優勝で六段と、立て続けに昇段。藤井が将棋史上空前の天才である可能性は高い。

藤井の登場は、重く暗い空気が立ち込めていた将棋界の状況を一変させた。テレビのワイドショーでは、連日のように将棋の話題が取り上げられ、将棋会館近くの棋士御用達の飲食店が、大入り満員となる。藤井ブーム以前には、考えられなかった事態である。

藤井の台頭は同時に、これまでのレジェンドたちの偉大さを再認識させることになった。その代表的な人物が、「神武以来の天才」の加藤一二三であり、また、「永世七冠」を達成して国民栄誉賞受賞も果たした、現代の第一人者である羽生善治だ。

コンピュータはすでに人間を凌駕している

コンピュータは、名人よりも、はるかに強い。

以上が現代将棋界の大前提である。コンピュータはすでに人間のトップを凌駕し、しかも比較にならぬほどの実力を獲得した。それを人間がどう解釈し、どのように語ろうとも、根底の事実は変わらない。

その前提の下、2017年度の将棋界は、冒頭から、史上空前の対局から始まろうとしていた。それが、人間とコンピュータが1対1で最後の真剣勝負を行う電王戦二番勝負である。

将棋の対局は、盤を挟んで向かい合う、2人の対局者がいなければ成立しない。

電王戦の舞台に立つ1人は、トーナメントを勝ち抜いた当代最強の人間だった。その称号を「叡王」という。そして2017年の叡王は「名人」の称号も併せ持っていた。将棋界にあって名人とは、同時代に1人だけが名乗ることを許された、格別の意味を持つ尊称である。

現在、名人を名乗る棋士の名は、佐藤天彦という。

2016年。28歳だった佐藤は、棋界トップリーグのA級を勝ち抜いて、羽生善治名人への挑戦権を獲得。七番勝負では、羽生を4勝1敗で降して将棋界最高の栄誉を獲得した。名実ともに、現代最強の人間である。

佐藤が電王戦に登場するのは、名人だからではない。「叡王戦」という名のトーナメントを勝ち抜いたからだ。「叡王」として、電王戦の舞台に立つ佐藤が名人だったことは、重大な意味をはらんでいた。

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