女性上司が女性に行う理不尽パワハラの恐怖 パワハラとして訴えたが「事実無根」とされた

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安川さんはサービス業の会社に一般職で入社後、35歳の時に試験を受けて総合職への転換を果たした。総合職入社で未婚、40歳代前半のその女性課長は、安川さんの働きぶりに対して「総合職の自覚が足りない」などと、何かとケチをつけ、課員のほとんどが席に着いている機会を見計らっては、皆に聞こえるような大声での叱責を毎日のように繰り返した。

さらに、課内外の社員や派遣スタッフの女性たちの間に、安川さんが「取引先の男性に媚びを売って取り入っている」などと根も葉もないうわさを流され、彼女は社内の女性たちからも距離を置かれたり、無視されたりするような状況に追い込まれていったのだという。

パワハラは「事実無根」とされた

女性課長の上司にあたる部長に報告し、人事部次長同席のもと、会社の制度に基づきパワハラ事案として訴えたが、約2週間後、人事部からは「調査の結果、パワハラはなかった」という判断を言い渡された。「事実無根のパワハラで女性上司を訴えた」という、負の烙印を押された安川さんはあまりの精神的苦痛から、出社できなくなってしまう。部長の勧めもあってメンタルクリニックを受診したところ、「軽症うつ病」と診断され、約1カ月休職することに。

一見、本人にとっては嫌な職場から離れて休養でき、良かったようでもあるが、実際には職場復帰後、服用中の薬の副作用もあってか、なかなか作業効率が上がらず、人事考課(5段階評価)が以前のCから最低ランクのEにまで落ち、男性課長以外はすべて女性の派遣スタッフで職務を遂行している、クレーム対応窓口への異動を命じられるのだ。結局、彼女は異動先の職場にもなじめず、自ら辞職願を提出したという。

「お気づきやと思うんですが、もともと男性と肩を並べて仕事をこなして、男性と同じように管理職に就いて出世したいという目標がありました。だから、一般職から必死に頑張って、難しい総合職への転換試験に合格したんです。それやのに……」

充血していた目はかなり治まってはいたが、硬い表情で、一つひとつの言葉に込められるすごみのようなものがどんどん増していくのがわかった。

「安川さん、少し中断しましょうか?」

「いいえ」

できるだけリラックスして話せるようにと、互いの目線がぶつかりにくいテーブルの角を挟んだ座り位置にしていたのだが、彼女はさっと身体を私のほうに真正面に向けてそうきっぱりと言い、続けた。

「そのパワハラ女性課長は、実際には部下を管理・監督し、課全体を取り仕切る能力に乏しいことは、部長や人事部も含めて周りのほとんどが知っていたんです。でも、その女性にはみんな、腫れ物に触るように接して、誰も能力不足を指摘したり、改善するように指導したりはしませんでした。そんな女性上司の問題点を放置したために、私のような犠牲者が出ることになってしまったんやと思います。『女の敵は女』という言葉を聞いたことがありますが、それをまさか自分自身が被害者として経験してしまうなんて……」

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