女性上司が女性に行う理不尽パワハラの恐怖 パワハラとして訴えたが「事実無根」とされた

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会社を辞めてから3カ月経ち、求職活動中であるという安川さんは、本当に言いたいことをまだ内に秘めたままでいるのではないか、と感じた。本来は彼女自身の自発的な発話を待ちたかったが、彼女の精神状態によってはいつ取材が終わってしまうかわからない。思い切ってこう尋ねてみた。

「転職されたら、また総合職で管理職を目指されるのですか?」

すでに身体をテーブルの角を挟んで90度の位置に戻していた安川さんの瞳が鋭く輝いたのが、斜め横からの表情ですぐに見て取れた。と同時に、一瞬にして空気が張り詰める。実際にはほんの1、2分だったのだが、この間の沈黙がとてつもなく長く感じられたのを、昨日のことのように思い出す。

「……もう、管理職は、無理やと思っています。管理職に就いて、男の競争に組み込まれることよりも……女同士の闘いが、もう、怖くてたまらないんです……」

そう精一杯、力を振り絞って言い切ってくれた彼女に、それ以上突っ込んで質問することはためらわれた。かといって、うまく元気づけるような言葉を見つけることもできなかった。この時は、心に靄がかったような取材終わりとなってしまったのである。

一般職経験が正社員へ後押し

安川さんは2017年に最後に取材した時点で、流通業の会社の一般職として経理事務を担当していた。転職活動が難航していた最初の取材時から数カ月後に派遣会社に登録し、今勤めている会社に3年間、派遣スタッフとして働いていたが、経理事務の能力が評価され、正社員に登用されたのだ。

自宅まで交通の便の良い主要駅前の喫茶店に現れた安川さんは明るい表情で、ペパーミントグリーンの襟なしブラウスに紺色のタイトスカート、オフホワイトのジャケット姿。どこか影が差していた以前とは見違えるようだった。これも前と同様、奥の4人席に先に着席していた私に笑顔で挨拶した後、躊躇することなく、視線がぶつかり合う機会の多い真正面の席に着いた。仕事の経緯について尋ねると、こう説明してくれた。

「会社を辞めてからしばらくは精神的なダメージが大きく、それが面接にも影響したのか、正社員職を目指して転職活動をしていたのですが、不採用ばかりで……。それで、派遣スタッフとして働くことにしたんですが、仕事が思いのほかはかどり、それまで感じることができなかったような……うーん、達成感、とでもいうんでしょうか、なんや前向きな気持ちで仕事に取り組むことができるようになったんです。変なんですけれど……自分でもそんな気持ちになれて不思議、といいますか……。ちょうどそんな時に正社員の話をもらったんです」

安川さんの頬がみるみるうちに紅潮していくのが、よくわかった。

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