「残業規制」で所得と消費はどれだけ減るか

消費増税並みのショック?!

2017年の雇用者報酬が274兆円であるため、この6.2%に相当する16.9兆円が「年間の残業代」というイメージになる。政府の想定する4兆~5兆円はこの30%弱、雇用者報酬全体にとっては2%弱に相当する。言い換えると、残業規制の影響はラフに「残業代の30%カット」もしくは「雇用者報酬の約2%カット」と言い換えられる。もちろん、ほかにも計算方法はあろうが、今回はこの数字を前提としてみたい。

この額は決して小さなものではない。内閣府試算によれば、2014年度の消費増税(プラス3%ポイント)は実質雇用者報酬を約3.5兆円押し下げ、この結果、実質個人消費は2.7兆円減少したという。政府想定の「4兆~5兆円」は金額だけを見れば、2014年度の増税以上の影響ということになる。

仮に実質雇用者報酬が残業代規制により5兆円減少した場合、平均消費性向(所得のうち消費に回す割合)を0.77(内閣府の推計式から引用)とすれば 、実質個人消費は3.9兆円程度(≒5兆円×0.77)減少することになる。2016年度の実質GDP(国内総生産)は前年比プラス1.2%成長であったが、この減少を加味した場合、成長率は0.7%ポイント程度も押し下げられる(ここでは諸々の波及効果は無視する)。やはり小さい話とは言えない。

なお、こうして考えると、やはり一時期出回った8.5兆円という試算は過大だろう。その場合、実質個人消費は6.5兆円程度(≒8.5兆円×0.77)の減少とラフに2014年度増税の倍以上の影響になり、2016年度の実質GDPをマイナス成長に転落させかねない。それは考えにくい。

「量」を規制する本末転倒

残業規制が労働者の財布に痛いというのはわかりやすいが、企業の負担するコストについてはどう考えるべきか。直感的には、企業にとっての単位労働コスト(ULC)は減少するように思われるが、これは結局のところ、規制導入によって生産性がどう変わるかに依存してくる。

ULCは「名目雇用者報酬÷実質GDP=1人当たり名目雇用者報酬÷1人当たり労働生産性」で計算される。規制導入で名目雇用者報酬が下がり、生産性が上昇するならばULCは下がるだろう。だが、規制導入で名目雇用者報酬は抑制されても、生産性が悪化すればULCは上がるかもしれない。

たとえば、残業規制を受けた会社からの早帰り推奨を受けて急かされるように持ち場を後にする例があると耳にする。こうした挙動が個々人の生産性によい影響を与えるのか、議論の余地はあるだろう。また、ある業務の熟練労働者が強制的に労働時間をカットされ、非熟練労働者に仕事を配分することになり、むしろ生産性が下がる可能性もある(当然、「慣れている人」がやったほうが短時間で多くのアウトプットが可能になるのだから)。

残業規制の結果、企業が社員に支払う賃金が総額で減少しても、生産性が逆に大きく下がるとすれば、上述した定義式に従えばULCが上振れることもありえる。残業規制は労働者の財布にも痛いが、企業の財布にとっても痛い結果となる可能性を秘めている。ちなみにULCに関し近年の傾向を見ると、過去1年は生産性の改善が相応に押し下げに効いているものの、基本的には名目雇用者報酬による押し上げ効果が生産性上昇による押し下げ効果を上回る状況が続いている。

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